四
子供というのは、案外頭が良いし大人が思っているよりも強かったりする。それを大人が気づくとは別として、であるが。それに加えて、子供同士のコミュニティでは大人が知らないと思っていることも情報として交わされることがあるのだ。例えば――。
「あの手紙の中に、菜乃花宛ての手紙があったよ」
咄嗟についた嘘を見破る言葉だとか。新美南吉の言葉に菜乃花は目を瞬いた。コロコロと転がったクレヨンは狐のぬいぐるみであるゴンにあたってとまる。
「南ちゃん、本当?」
「ほんとう、さっき、みえちゃった」
「でも、さっき、たかむらせんせは、違うって」
菜乃花の言葉に同じくクレヨンを握っていた宮沢賢治は首をかしげる。
「じゃあ、光さんに後で聞いてみる?」
「うーん」
「それよりも、こそっと手紙だけとっちゃおうよ。大人が内緒にしてること、おしえてくれなさそうだし」
悪戯っこの笑みを浮かべた新美南吉に、菜乃花はうん! とうなずいた。宮沢賢治もどこかワクワクしたような表情を浮かべると、こっそりと二人にしか聞こえないくらいの小さな声で口を開く。
「でも、南吉、どうやってその手紙を取るつもりだい?」
「うーん、夜中にこっそり?」
「よなかはねむたいよ」
菜乃花の言葉に、宮沢賢治はうなずいた。二人だけならば、夜中にこっそりは可能だろう。しかし、取ってくるのは菜乃花の手紙である。菜乃花だけ仲間はずれはできない。
「うんうん、そうだよね。お昼にしよう。夕方とか、みんなが会議してる間はどうかな?」
「ちょうどいまかな? いつもこれくらいの時間に集まって話してるよね」
「じゃあ、僕がこっそり取ってくるから、賢ちゃんは菜乃花と秘密の場所で待ってて」
新美は楽しそうにそう告げる。宮沢と菜乃花は首をかしげた。
「一人で大丈夫?」
「うん、まかせて」
自信満々の笑みである。新美がそういう笑みをするときは、十中八九うまくいくことを二人は知っている。
「じゃあ、秘密の場所で待ってるね。菜乃花、行こう!」
「うん!」
菜乃花の手を引いた宮沢に、菜乃花は一緒に廊下を駆けていく。ソレを見送って、新美は「ごん、がんばろう」と告げ、こっそりとその場を後にした。散らかったクレヨンはしまわれないままなのは作戦の一つだ。こうしておけば、『大人』達は絵を描くために何かを探しに行ったのだと思うから。
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