彼らと僕が出会ったのは、今日みたいな澄み切った空気が印象的な日だ。
 元より僕はこの「帝国図書館」で事務をしていた。決して錬金術師ではなく、本当に普通の事務職だ。働いて二年目、少し仕事に慣れ始めた頃に彼らはやってきた。『特務司書』という特殊な役割として。
 『特務司書』という職を政府が募集した時、何千人もの人がその募集に手を挙げた。二十六歳以下という年齢制限があったのにもかかわらずである。きっと、物珍しさや話の種に送ってきた人もいるのだろう。送られてくる履歴書を必死に徹夜しながら分けていったのは苦い記憶である。そこから篩をかけて絞り込み、適正があるか調べて見事に適正が出たのがその五人だった。そのうちの一人は館長が直々に声をかけた人物で、そのうちの三人は試験に受かって、後の一人は試験の日に偶々そこにいて誰よりも大きな適正が出てしまったから「特務司書」という職になったのだけれど。

 新しい司書に渡す鍵や、使われていなかった寮の鍵、資料や館長の私物なんかを揃えて談話室に向かう。その途中で見かけた姿に「やぁ、棋院くん」と声をかければ彼は振り返った。
「こんにちは」
 そう笑ってみせた彼は見るからに好青年だ。今日も清潔感のある服装に身を包んで、爽やかに笑う。きっちりと着こなした服は彼の性格を示しているのだろう。大変そうですね、持ちましょうか? と僕の荷物を持ってくれた彼は相変わらずだ。
「他の人には会った?」
「いいえ、まだです。ああ、でも、菜乃花には会いましたよ」
「あぁ、僕もさっきちらっと見たよ。おめかししてたね。髪にリボンつけて」
「さっきせがまれてやったんですよ」
「あれ、君がしたの?」
「妹によくやってたので」
 苦笑いした彼――棋院勇気 くんに、器用だなぁと思う。
 彼は館長に選ばれた人だ。いや、館長ではなく、文字に、神様に選ばれた人なのだと僕は思う。彼はこの図書館の常連で、昔からよく本を読んでいる姿をよく見かける。でも、もっと印象にのこっているのは、一昨年の冬あたりに誰もいない部屋で使われなくなったピアノを弾いていた姿だろうか。彼の指から奏でられる音はとても綺麗だった。しばらく奏でていた彼は僕と館長の視線に気づいた瞬間にそれをやめて苦笑いをしたのだけれど。
 まぁそんなこんなでこの図書館に通っていた彼は僕たち職員や館長と仲がいい。彼は大学を卒業したら錬金術師として館長の手伝いをしたいと申し出ていた。そしてこの特務司書の騒動に巻き込まれたというか――自分の意志で飛び込んだというか。
「寮生活には慣れた?」
「徳田先生と文学談義をしたり、本を読んだり、有意義な時間を送っていますよ」
「仲良く慣れそう?」
「俺としては」
 棋院くんはそうもう一度苦笑いをする。距離を掴みかねているのだろうか。僕はあの人を遠目でしか見たことがない。本から転生した彼は、あの時代を生きた文豪であるらしいけれども、おじいさんなんかではなく僕らと変わらない姿なのだから不思議だ。
 そんなことを棋院くんとしばらく話しながら談話室に向かっていれば、一人の青年がタバコを吸っているのが見えた。窓を開けているだけ、律儀というか。何かを考えているのか憂鬱を目に映して吸っている様は何処か不良にも見える。いや、不良というか一匹狼というか。赤茶色の髪をオールバックにして、黒いライダースーツを着ているから余計にそう見えるのだろうか。彼を見て棋院くんが足を止めた。
「按司?」

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