十三



 羊のようなその存在は、行く先々で追いかけてくる化け物だった。なぜかはわからない。ただ、ソレが現れたが最後、その場所は闇に包まれ、何もなくなってしまうのだ。
 だからこそ、車掌は最後尾車両から前の車両に逃げるように客を促し、その車両ごと切り離そうとしている。切り離してしまえば、恐らくは前の車両は無事だろう。広がる混乱に遡るようにバタバタとかけてきたのは小さな探検隊を率いていた整備士だ。大人の間をくぐり抜けてきた三人の子供は車掌を見た。
「車掌さん、どうかしたんですか?」
「お前達がきにすることじゃない」
 そう首を左右に振った車掌は整備士を見る。
「整備士、手伝え。車両を切り離す」
「は? 切り離すって言っても――」
「アイツラが出た、時間がない!」
 そう叫んだ車掌に整備士は大きく目を見開いて車掌のそばに立った。ガン! と何かを蹴るような音がする。宮沢と新美、菜乃花は二人の後ろをのぞき込んだ。そこにいたのは羊のような物だった。羊さん! と言って駆け出そうとした菜乃花を整備士が止める。
「アレが普通の羊さんやったらええねんけどなぁ。お嬢ちゃん達はさがっとき」
「賢ちゃん、あれ」
「うん、間違いない、侵蝕者だ」
 新美の言葉にそううなずいた宮沢は車掌と整備士を見た。
「二人とも、あの羊は僕らに任せて」
「任せるって――」
「南ちゃん、」
「うん」
 そういって二人は整備士と車掌を押しのけるように銃を構えた。整備士と車掌が何か言う前に、宮沢が口を開く。
「南無三!」
 二発の発砲音。二発の弾が当たったらしい羊はうめいてインクを散らして消えた。整備士が目を開く。
「お? おおお? 銃撃効いてるやん!」
「嘘だろ、他の乗客の猟銃は聞かなかったはずだ……おい、もう一匹がこっちにくるぞ」
 もう一匹の羊が突進するようにやってくるのが見える。二人は急いで弾を装填するが、羊のようなソレがその鋭い爪をふりかざす方が早いのだろう。庇うように子供の前に出た整備士と車掌に、また、銃声が聞こえた。
「賢治さん、南吉さん、無事かい?」
「光さん!」
「菜乃花!」
「パパ!」
 現れたのは高村と男だ。羊は大きくうめいて、またインクを散らして消える。ほっと息を吐いた整備士と車掌をよそに、菜乃花は男に抱きついた。男は菜乃花を抱き上げると、最後尾車両ではなく、先の車両を見る。聞こえてきた叫び声に似た声にびくりと菜乃花が肩を揺らし、怖がるようにその先を見た。
「安心してる暇はないみたいだ。恐らく、この先にもアレが出てる」
「おい、乗客や乗務員、機関士と運転士は前だぞ」
「――車掌さん、あの化け物は三人に任せた方が良い」
 そう告げた男は、ちらりと最後尾車両の出入り口付近を見た。
「いや、四人か」

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