十八
――ぱぱ、あのね。
その書き出しで始まる日記帳には相変わらずキメラのような存在がいる。多分、菜乃花がタマと呼ぶあの名前のない猫なのだろうと言うことはわかった。話の内容がタマと追いかけっこしたことだからである。
そんな日記帳を端に寄せ、僕は目の前の書類に眉間の皺を寄せた。――いわゆる、始末書の類いである。
あの手紙の潜書は、猫の知らない場所で行われていたし、菜乃花の潜書も館長のいない場所でおこったわけだ。本来ならば、五人の司書達は上司である館長に伺いを立てなければいけなかったのである。しかしながら、勝手に事を進めた五人(と見守っていた僕)に政府は怒り、事の顛末をきちんと示した始末書を書けといったのだ。いや、でもアレは仕方なかったと思うし、棋院くんの判断も間違っていないと思う。そう擁護すれば、始末書の量が増えた。なんということだ。ちなみに館長は報告を聞いて驚いたモノの、それが最善だったさ、と許してくれた。――まぁ、始末書のまとめは僕に丸投げだけれど。
五人の書いた始末書とその詳しい顛末、菜乃花が書いて菜乃花の会派が添削した報告書をまとめるのが僕の仕事である。それに加えて、今回の報告書も「至急だからニャ」と要求してきた猫は鬼だ。
――あのあと。南十字座を折り返したあと。
銀河鉄道は車掌の言うとおり、またあの桜の木の下に折り返してくれた。整備士さんが始末書とうめいていたのを聞くに、彼らもまた僕らと同じように始末書を書かなければならないんだろう。
あそこに行って何かを差し出せば乗れるのか、という問いを立川さんがしたけれど、どうやら車掌によると海野さんだから交換したらしい。どういうことなんだろう、と首をかしげた僕らに、海野さんが苦笑いしていた。
ちなみに扉が開けっぱなしになっていたので、そこから海野さんの会派が入ってきていたらしい。折角だからと大勢の文豪達による宴会になったのも、銀河鉄道に乗れたこととあわせて良い思い出じゃなかろうか。まぁ、僕らは酔い潰れて、気づいたら図書館のソファや談話室に寝かされていた。きっとお酒に強い文豪達が運んでくれたんだろう。。
館長と菜乃花はあの手紙を大事に額に入れてしまっている。僕もその内容を読ませてもらったけれど、とても小説的だった。特に、菜乃花宛ての手紙は、まさに銀河鉄道に乗りながら書いたような、読んでいてとても面白いものだったのだ。だから、恐らくは潜書した先の景色が銀河鉄道だったんだろう。銀河鉄道の話を理解するには、菜乃花にはまだもう少しはやい。でも、いつかは理解できるようになるその物語に沿わしたのは僕は正解だと思うのだ。理解できるその日には、きっと菜乃花も大人になっているだろう。
菜乃花は今日も手紙の住所の欄に「みなみじゅうじざ」とかいて、海野さんに手紙を渡している。……海野さんは困っていないだろうか。
そんなことをぼんやりと考えていれば、ノックの音がした。はい、と返事をすると、「失礼します」と棋院くん達が中にはいってくる。どうかしたかな? と首をかしげれば、棋院くんは苦笑いした。
「この業務、俺たちにかなり責任がありますし、手伝いますよ」
棋院くんの言葉に、僕は立ち上がって彼に近づくとその手を取った。
「ありがとう! あの猫のせいで大変だったんだよね! 報告書とか始末書とか報告書とか」
「そんなもの、適当に嘘ついても大丈夫じゃないか? 知らぬ存ぜぬで貫き通せば事実になるぜ」
「按司、それ、後で発覚したとき怖くなるよ」
立川さんの突っ込みに、按司くんが目を泳がせた。
「バレなきゃいい話だろ」
「按司、やめといた方が良いぞ。お前、嘘つけないタイプだから」
「確かに下手ですね、致命的に」
そうばっさりと言った海野さんは始末書の一束をとって近くの椅子に座った。「うるさい」とふてくされたような按司くんも始末書の一束を取って、近くのソファを陣取る。棋院くんがまた始末書をとって按司くんの隣にすわり、立川さんは始末書と菜乃花の報告書をとって海野さんの前に座った。
「『至急』の報告書は手伝ってくれないの?」
僕の問いかけに、四人は声をそろえて告げる。
「報告書は東さんの仕事でしょう」
いや、たしかに、そうなのだけれど。
僕はがっくしと肩を落として、書きかけの報告書に手を伸ばした。外からは菜乃花の楽しそうな声が聞こえる。最近の菜乃花のお気に入りは文豪達を巻き込んだ電車ごっこである。高村先生が作り上げた段ボールの列車に触発されたのか、他の文豪も偶に段ボールで作っているときがある。やけにクオリティーが高い汽車が今一番の菜乃花のお気に入りだ
「ひしょしついき、れっしゃ、はっしゃオーライ!」
そのかけ声に、僕達は動きを止めた。これはどうにかして、菜乃花による侵蝕を防がなければならない。扉を閉めてしまっても、遊びに付き合っている文豪達が開けてしまう可能性もあるわけで。そして、菜乃花が泣いてしまう可能性もあるわけで。
――その十分後である。棋院くんに用事があってきていた志賀先生に、銀河特急菜乃花号が突っ込み大破するのは。そして、大泣きした菜乃花に館長よりも父親らしい高村先生になぜか僕らが怒られるのもだ。これが司書と僕の間で言う「高村パパ」誕生の瞬間だった。
銀河鉄道からの切符-周-(二八三六八〇/五二五六〇〇)
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