五
「そういえば、そろそろ幽霊の目撃談が増える時間デス」
そう時計を見ながら小泉先生が告げる。菜乃花や宮沢先生、新美先生や三人の少年は縁側にめんする部屋で寝息を立てていた。というか、ちょこちょこと泥酔して寝ている人も増えている。これを僕らが運ぶというのであれば、大変だろう。
海野さんは杯を見下ろしながら、そうですね、とうなずいた。
「でも、明日にはその怪談はなくなっていることでしょう」
彼女の言葉に小泉先生だけでなく、お酒に手をつけていないらしい佐藤先生達も見た。
「どういう意味デスカ?」
「そのままの意味です。怪物達はきっと退治されたでしょうから」
「退治?」
僕らが聞き返しても、彼女は答えてくれないらしい。秘密主義者というか、なんというか。さて、と手を叩いた彼女は立ち上がると振り返って僕らを見る。
「そろそろお開きにしましょうか。子供達も寝ちゃいましたしね」
「ああ、そうだな。もうこんな時間だし」
「夜通し飲みたい」
「またの機会にすれば良いさ」
若山先生の言葉に、佐藤先生がそう告げる。周りに声をかけた彼に、文豪達はそばにいる酔い潰れた人たちを抱えたり担ぎ上げたりする。門のところに来て改めて思ったけれど、森の中は暗い。この中を帰るのか、と少し躊躇していれば、彼女は森の中を見て、歌うように口ずさむ。
「ともしませませ、灯の神よ、ほおずき提灯だけでなく、ほたるの光でてらしませ。行く道来る道帰る道、道祖の神のご加護にて。行きはよいよい、帰りも酔いよい、彼らを部屋まで通しませ」
彼女の言葉に反応するように、森の茂みから螢が舞い上がる。蛍の光はこんなに明るいのかと思うほど、彼らは石畳を照らした。これも彼女の錬金術なんだろうか。尋ねてみようかと僕が彼女の方を見れば、彼女と青年は門から手を振った。
「お気をつけて」
そう笑んだ彼女に、佐藤先生が立ち止まる。
「遼、ひとつ聞きたいんだが――此処は現実なんだよな?」
彼の言葉に、海野さんはきょとんとした。佐藤先生は苦笑いをする。
「いや、悪い、あまりにも浮世離れしているというか、綺麗すぎたから」
「いえ、」
「あんまり夜更かしするんじゃないぞ」
そう頭をぽん、と撫でた彼に彼女は地面を見た。照れているんだろうか。
「貴方は優しい人ですね、怒っても仕方がないのに、私のわがままを聞いてくれますし」
「俺は優しくなんてない。年上なんだ、年下のワガママには多少は付き合うさ。それに、俺はあんたが思っているよりも獰猛なオオカミかもしれないぞ」
からかうように佐藤先生が告げる。彼女はいいえ、と、彼の手をとった。
「おやすみなさい、良い夢を」
そう笑んだ彼女に彼は「おやすみ、」とつげると僕らの方へ歩き出す。青年が何も言わずに佐藤先生をじっとみている。小径を進み、あの扉をくぐる。その先は彼女の司書室である。最後の一人である佐藤さんが足を止め、振り返った。
「佐藤先生?」
「いや――」
そう首を振った彼が扉から足を踏み出す。その瞬間、入れ替わるように扉の向こうに大勢の青少年達の後ろ姿が見えた。時代錯誤な格好だ。帯刀して、和服に近いような服を着た。彼らは僕らに大きく手を振る。僕らが呆けている間に森の景色であったそこは段々と壁に変わっていき――最後には壁になって扉が閉まった。僕らは目を見合わせる。掲げられたプレートは真白なものに変化していた。
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