海野さんの言う通り、怪談の類の目撃例ははピタリととまった。二振りの短刀はいつのまにか彼女の元に戻っていて、無くしたと思った二人はただただ驚いていたのだけど。
 そんな折である。二冊目の悪戯された本が見つかったのは。一冊目が詩歌の棚から見つかったのに対し、二冊目は小説の棚から見つかった。前と同じくバッサリと切られたそれはタイトルも著者名も分からず、僕らは頭を抱えた。海野さんだけが眉間にシワを寄せていたけれど。前は隠されていたが、話し合いの上で文豪たちにも報告された。仕事が増えるというのに見回りという職を追加することを提案してくれた文豪たちは本当にいい人だと思う。
「そう言えば、もうすぐ遼の誕生日だが向こうで祝うのか?」
 そうはっきりと聞いた佐藤先生に、僕は「さりげなくの意味とは」と考える。今日は海野さん達が見回りをする日で、そのついでに本の整理を手伝ってくれているのである。そう、手伝いであり、物色ではないのだ。若山先生達は若干物色している気がするけど。その点、佐藤先生はきちんとしてくれる。森先生は医務室の業務があるためにそちらにいるようだ。海野さんは「そうですね」と頷いた。
「毎年毎年、大切な日なのでお祝いを。でも、今年はお祝いする暇はなさそうです」
 ゆっくりと彼女は自分の手元を見つめる。佐藤先生は首を傾げた。
「司書のほうなら、俺たちでなんとかできるが」
 佐藤先生の言葉に、彼女は「ありがとうございます」と笑った。
 ふむ、と、言うことは、彼女の誕生日はズラした方がいいのだろうか。向こうは彼女にとって家族みたいな人達ならば、職場よりそっちを優先すべきだろう。
「遼は誕生日、何が欲しいんだ?なんでも買ってやるぞ」
 そうカラカラと笑った菊池さんに彼女は目を瞬いて、そうですね、と考える。しばらく考えた末に、彼女は「買わなくていいので」と前置きをした上で口を開く。
「先生たちのとっておきの詩や歌、短編小説が欲しいです。既出でも構わないので」
 なにそれ、僕も欲しい。その言葉を咄嗟に言わなかった僕は偉いと思う。
「渡すなら既出じゃない方がいいんじゃないか?」
「そうだなぁ、渡すなら新しい物の方がいいな」
「お前さん達、自分で自分の首を絞めてないか? 俺はいいけどな」
 そう話込み始めた三人に、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。その様子が珍しくて目を瞬く。なんというか、年相応の顔だった。
 ちなみに、彼女のお願いは今いる文豪全員を巻き込むことになることを僕と彼女はまだ知らない。

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