人のいない中庭に、海野さんと按司くんがいる。暑いから、というよりは彼女の誕生日のプレゼントの為に文豪達は部屋にこもっている。彼女の誕生日まで八日。一日日付をずらした誕生日会あと丁度一週間。ある意味佳境だろうか。
 按司くんは最近手に入れた電子タバコを吸って彼女をみる。
「お前、どうすんだ?」
「どうもしませんよ」
「あと一週間だろ」
「まぁ」
 そう言って彼女は太陽に透かすように手のひらを見つめる。
「え――」
 僕もつられて彼女の手を見た。その手が、一瞬透けたのは僕の見間違いであって欲しい。
「さよか、まぁ、俺が口出すことじゃないな。それより三冊目が見つかったわけだが、どう思う審神者さんよ」
 按司くんがそう言ってまたタバコを蒸す。そう、あの悪戯された本はまた一冊見つかった。同じく小説の棚からである。見つけてくれた職員は顔を真っ青にして僕や館長に知らせてくれたのである。
「原因は断ったと思ったんですがね」
「どう考えても内側から手引きしてる奴がいるだろ」
「さぁ、なんとも。ただ、時間がないとだけ」
 彼女はそう言って手をゆっくりと下ろす。立ち上がった海野さんはなにも思っていないかのように立ち上がりそのまま館内に入っていく。按司くんは電子タバコをしまうと人差し指を口元に立て――僕を見た。まさか僕に気づいていたなんて、と驚いて荷物を落とす。慌てて拾い上げれて外を見ればそこに彼がいた様子はない。見間違い、というか、白昼夢というものなんだろうか。そう一人考え込んでいれば、声をかけられた。
「どうしたんだ? 東くん、ぼうっとしているようだが」
「いえ、なんでもないです」
 振り返ればいた館長は何か多くの紙束を抱えている。
「なんですかそれ」
「ああ、ほら、例の計画の原稿だよ。俺も読みたいと零したら編集者というかチェックする係になってしまった」
 いやぁ、参った参った。そう笑った館長を少し羨ましく思う。あの文豪たちの新しい書き下ろしなのだ。多くの人が喉から手が出るくらい欲しいだろう。
「いいなぁ」
 そうぼやいた僕に誰かががしりと僕の方をつかんだのがわかった。肩をはね上げてそちらを見れば、菊池さんである。
「その言葉を待ってたぜ、東」
「え?」
「すまないなぁ、東くん。道ずれだ」
 カラカラと笑った館長に僕は意味を掴みかねて菊池さんと館長の顔を見比べた。
 それからある意味地獄を見る羽目になるとはその時の僕は思いもしなかった。……いや、ちょっとだけ予感はしたけれど、ここまで酷いと思っていなかったというのが正しい。

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