「とりあえず、佐藤春夫は徳田秋声と共に他の文豪をその本から探してきてもらう」
「ああ、構わないが――徳田秋声?」
「ああ、今棋院が呼びに行ってる。猫、お前も頼むぞ」
「まったく、猫づかいのあらい」
 猫がもう一度ため息をついた。それと同時に扉が開く。青年が棋院くんに連れられてきている。
「まったく、君って結構人使いがあらいよね」
「まぁまぁ、そう言わずに」
「もう、他がいるなら他と猫に頼めば良いじゃないか」
「あれ、本当だ。ひとり一冊で済みますね」
「ちょっと、僕に二回行かせる気だったの?」
 不服そうにした青年――彼こそが徳田秋声である――が、棋院くんを見る。彼は苦笑いをした。答える気はなさそうだ、とは付き合いが長いからわかることだろう。女性が海野さんに話しかける。
「ねぇ、さっきのどうやったの?」
「どうって言われても・・・・・・引っ張り出す、みたいな?」
「的を射ないな。適性試験と似たようなもんか」
 眉間に皺をよせた按司くんに館長がうなずく。
「ああ、ただ、別の文豪を送り込む必要があるから――」
「じゃ、佐藤せんせ、だったか? アンタの力を借りさせてもらうぜ」
「ああ、」
「しゅーせー、たすけて! タマでもいいよ!」
「我が輩は断る。徳田秋声、助けてやれ」
「なんで僕が・・・・・・仕方ないなぁ」
 そうぼやいた徳田先生は菜乃花の前に立った。菜乃花が目をつぶる。青い光が強くなり、風が起きた。本が開き、ページがめくれ、本から湧き出た文字が徳田先生に絡みつき――彼と共に消える。それを見てから、按司くんが本を見て本に手をかざす。菜乃花と同じように青い光が強くなり、本がひらいて佐藤先生を取り込む。それと同時に閉じた本に、唯一残った女性が困ったような表情を浮かべた。
「ねえ、どうやったの?」
「どうって、あんた、適性試験のときみたいに・・・・・・」
「えーと」
「・・・・・・立川さん、目を閉じて、深呼吸するんだ」
 館長の言葉に、立川さんと呼ばれた彼女は目を閉じて深呼吸をする。
「君は詩が好きだったね。詩を読んでいるとき、つい没頭してしまうだろう? 本の中に入り込んだように。そのときと似たような感じだよ。好きな詩の一節を思い浮かべれば良い」
 館長の誘導に、緩やかに光が強くなり、本が開く。ゆっくりと戸惑ったようにめくられていくページ、そこに溶け込むように猫が消える。
 館長は安堵したように息を吐くと、三人に懐中時計のような物を渡した。確か、調速機という時間を管理する代物だ。料理にも研究にももってこい、とは一部の錬金術師の言葉である。

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