二十
海野さんはちらり、とスポーティーな格好をした人物を見て口を開く。
「正岡子規、鐘がなるなり法隆寺」
「正解だ」
「幸田露伴、五重塔」
「正解」
「井伏鱒二、山椒魚」
「正解」
「唯一私と年が変わらない様に見えるの方が徳永直、太陽のない街」
「正解……唯一若いのって、お前なぁ」
そうぼやいた佐藤先生に、僕はそっと的を得ていると心の中でうなずいた。立川さんは声に出してうなずいた。彼女の周りの精神年齢は高い気がする。佐藤さんに言われた彼女は息を吸って顔を上げた。
「私は海野遼と申します。特務司書ですが、ほかの特務司書とは勝手が違います。詳しくは佐藤さん達に聞いてください。これが部屋の鍵です」
そう彼女は部屋の四つの鍵を取り出して彼らに渡す。何か必要な物があれば買いますので、とつげた彼女は「ええっと」と言葉を濁し佐藤先生を見た。
「詳しいことは佐藤さんに聞いてください。しばらくなれるまでは八人で業務を振り分けることになると思いますが……」
「また俺に放り投げるのか?」
佐藤先生が海野さんを見下ろす。
「……あのですね、私、人と話すの慣れてないんです」
勘弁してください。そう弱々しくつぶやいた彼女に彼らは目を瞬いた。僕も彼女を見る、もしかして、失踪云々だから文豪と関わらなかったのではなく。
「海野さん、人見知りだったの?」
棋院くんの問いかけに彼女はあさっての方を見た。立川さんが彼女に近づいて問いかける。
「あれだけ大勢に囲まれて過ごしてるのに?」
「ははぁ、もしやあれか。お前、人見知りだから文豪と話さなかったのか」
ニヤニヤと笑った按司君に海野さんは「うるさいですよ」と怒ったように告げた。というか怒っているのだろう。グーパンチで的確に急所をついたのか、按司君が珍しく顔をしかめた。
「悪かったですね! 人見知りで!」
「おま、的確に急所ついてくるのはやめろ!」
「こらこら暴れない」
わぁわぁと騒ぎ出した彼女達に僕はクスクス笑う。新しくやって来た正岡先生がそれを見て「司書は子供っぽい奴だなぁ」とつぶやいたのが聞こえた。そうか、この人達は普段の海野さんをまだ知らないのである。一応注釈しておくか、と声をかけようかと先生達を見た。しかし、佐藤先生達を見て、それをやめる。佐藤先生達は顔を見合わせて笑っていたからだ。「そうだろう?」と。
暑い夏の日の話-終-(三八一六〇〇/五二五六〇〇)
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