十四
「ねぇ、この中のいくつかは侵蝕されきって、なかったことになっているようだけど」
藤村先生がそう言って、リストを見る。按司くんの手帳を解読する中でリストの中にある本――侵蝕されていないものだ――は見つかりつつあった。それでも全てじゃないけれど。図書館の鍵を閉めきって夜通し行われている作業である。見張りは海野さんやその刀剣達が引き受けてくれていて、一般職員は安全のために帰された。まぁ、彼らは何一つしらない。恐らく「またやっかいな事件が起こったんだな」とおもっているんだろう。東くん無理をしないようにね、と僕に声をかける程度には。まぁ、だから、僕達はこうして誰にじゃまされることもなく――ある意味安心して作業をしている訳である。
「僕らの本も侵蝕され切ったら、こうなるってことだよね」
「おいおい、怖いこと言うなよ藤村」
「だが、事実だ。俺も侵蝕され切った事象とは初めて対面したが――本当に消えてしまうとは」
館長の言葉に、周りは黙り込む。侵蝕され切った本がどうなるかは今まで推論の域の話だった。それもそうだ。されてしまったものは人々の記録にも人々の記憶にも残っていない。今回だって、海野さんの部署の指摘により判明したことだ。おそらくそれがなければ気づいてもいない。徳田先生が困ったように口を開く。
「元に戻す術はないのかな」
「今のところはない。世界中探してもな。だが、いつか必ず見つけ出す。消えていい物なんてあるわけがない」
館長の力強い言葉に、僕は少しホッとした。やはり、この人は強い人だ。困惑したり後手にまわることはあれど、諦めたりはしないのだ。館長の言葉に文豪達も安心したんだろう。そうだな、といいつつ作業を再開する。
潜書を終えた文豪からの話をまとめていた立川さんが何か思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、遼ちゃんの部署と按司の部署、同じ政府の部署なのに秘密をバラしてていいのかな」
立川さんの問いに同じくメモをしていた中野先生が答える。
「あぁ、それについては面白い言葉を海野さんが言っていたね。彼女のところは時の政権に左右されない、按司くんのところはその逆だって。歴史は面白いほどその時々で認識が変わるものだから、一貫性を保とうとすればその時代時代の考え方に流されちゃだめなんだろう。だから、海野さんたちからすればばらす必要があったんじゃないかな。まぁ、彼女達の歴史に対する視点はどこの時代を基準にしてるかが気になるところだけど」
「じゃあ、按司のところは?」
「彼のところは多分、時の政権に左右されるんだろうね。このリストのものは、今の政治家達が恐らく不要だと判断したんだろう。ほとんどが戦争に関するものなのをみるに、彼らが思うこの国にとって都合が悪いものを排除しているように見えるよ。まぁ、それを阻止してる僕らは今の政府に喧嘩をふっかけてるみたいなものだね」
あっけらかんと告げた笑いながら告げた中野先生に、僕は改めて目眩を感じた。立川さんもそれを聞いて固まる。棋院くんがこまったように「今更かい?」と尋ねたけれど。しかし、そんな反応をするのは立川さんだけじゃない。手伝ってくれている太宰先生もそうだ。
「え、なに、なにそれ、聞いてないんだけど。そんなやばいこと起こってたの!?」
「オダサクさんから聞かなかったんですか?」
「聞いてない! 『太宰君ワシちょっと野暮用あるから代わりに頼むわ、太宰君にしか頼めへんねん』としか聞いてない!」
その言葉に立川さんが小さく「押しつけられてる」とぼやいた。佐藤先生が慌てて立川さんの口を手で塞いだけれど。井伏先生が苦笑いしながら、頼りにされてるな、と言い換えていた。
「何やってんだ」
そんな声が聞こえたと思えば、そこにいたのは坂口先生である。どうやら潜書から戻ってきていたらしい。棋院くんは我関せずという風に彼をみた。
「おかえりなさい、坂口先生。何かわかりましたか?」
「最後の一冊のありかがわかった。――わかったんだが、俺は場所がわからない!」
そう胸をはった坂口先生に僕らは顔を見合わせる。館長が不思議そうに彼を見た。
「何処だと書かれてたんだ? 他のように棚だの番号とかは書かれてないのか?」
「ああ、ただ、秘密基地の中にあるとだけ」
その言葉に部屋の端にいた賢治先生と新美先生が反応した。二人は顔を見合わせると、「僕達が取ってくるよ!」と手を上げる。なるほど、図書館にある秘密基地は賢治先生と 新美先生、菜乃花が遊んでいる場所だろう。按司君が前の手紙の事件でその場所を知っていたのはだからだろうか。賢治先生と新美先生が掘先生と佐藤先生を連れて部屋を出ていくのが見える。残ったもう一人である菜乃花は高村先生のそばでくうくうと寝息を立てている。その様子を見て志賀先生が首をかしげた。
「元からそんなわかりづらい場所にあったのか?」
「――それとも司書が隠したのか」
坂口先生はそう言ってサングラスをかけ直した。僕らは坂口先生を見る。彼は何を見たんだろうか。彼はシニカルな笑みを浮かべた。
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