兵士達がザワザワと話す中を歩く。あの子供が新しい、可哀想に、いや違うらしいぞ、運がいい、片目あんなんだったか? つぶされたんじゃないか。いろいろな国の言葉で交わされるそれを聞き流しつつ歩く。

「お前、気にしないのな。自分のことってわかってんだろ?」
「気にしたところで教えてくれないでしょう?」
「そりゃそうだな」

 そう言って大きな扉を開けた先には沢山の兵士がいる。敬礼をされた、ということは89さんは偉いのだろう。若く見えるけれども。そのまま気にすることなく進んだ彼は、人がよりついていないテーブルに近づく。

「あら、89ちゃん。もう昼食? それとも朝食かしら?」
「こいつのな」
「あぁ、生きてたのね」

 ニコニコ笑った彼は「こちらにいらっしゃい」と手招いた。そちらに行こうとすれば彼は顎でカウンターのような場所を指した。

「先に飯とってこい」

 なるほど、とそのままカウンターに向かう。前から歩いていた青年が人を避けたことでスプーンを落としかけたので床に落ちる前にキャッチをする。

「落ちてませんが一応変えましょうか?」

 そうスプーンを落としかけた青年に尋ねれば彼は目を見開いた。

「あ、いや……あんさん、なんでわかった?」
「はい? 前から歩いてきてたでしょう?」
「いや、そやねんけど……下に落ち引いたわけやないし貰うわ」

 彼はそう言って私からスプーンをうけとる。ありがとうな、あんさんは祝っといたる、とロシア訛りの入った英語で告げた彼を見送って首を傾げる。まぁ、兵士が私がどうすればいいかわからないから首を傾げたと理解したらしく、注文やらを手伝ってもらったのだけれど。
 とりあえず軽めの食事である。自分で作っていいなら自分で作った方がいい気がするが、流石にレーションなんかよりはマシだろう。が、89さんが思いっきり顔をしかめていたのでマズイのかもしれないが。とりあえず料理を持って89さんの近くに座る。前の青年に軽く会釈すれば彼もまた頭をさげた。

「マズイんですか」
「しらね。だが俺は部屋でラーメン食ってる方がマシ」

 いただきます、と言ってそれを食べる。味が薄いが食べられないほどではない。メッシュが入った男性が私を見た。

「感想は?」
「自分で作った方が好みの味ですね。食べれないわけではないです」
「マジかよ……」
「89、あんさんが舌肥えとんのちゃう?」

 青年の言葉に肩を跳ねさせた二人に首をかしげる。

「ゴースト!? おま、いつのまに……」
「さっきからおったっちゅうねん。このお嬢ちゃんが噂のか」
「そうそう、ゴーストちゃんは出てたものね」
「包帯はどないしたん、珍しいな、あの人が連れてきてすぐ傷物にすんのは」
「あー、違うのよ、この子、ファルが連れて帰ってきたようなものなのよね」
「そういや、長期任務云々とかいっとったな」
「で、あの方に気に入られたからあの人はノータッチよ」

 あの方、あの人、恐らくあの方が皇帝をさし、あの人が小太りな男をさすのだろう。コツコツと足音が聞こえてそちらを見れば講師である。

「先生」
「はやめの昼食ですか? それとも遅い朝食?」
「後者です」
「先生?」
「暇つぶしに教師をしていたんですよ。なにせ、あそこでは外からくるモノなんて少ないですからね、外国語の講師をすればある程度の生活の保障はされる」

 ニコニコとそう告げた彼はまた私の隣に座った。

「しかし、もう先生ではありませんし、ファルと呼んでください」

 講師――ファルさんに頷いておく。「昨日はあんな綺麗なテーブルマナーを見せていたのに」と告げた彼に「時と場所、対面する人によります」と答える。

「ここは気にしなくても良さそうなので」
「そういう子ですよね、貴方は」

 そう懐からレースの眼帯を取り出した彼は私に渡す。趣味ではないんだよなぁ、と思いながらも受け取る。シンプルなものでいいし医療用のそれでも構わないのだけれど。ゆっくりと巻かれている布を外せばそこにいた彼らが動きを止めた。

「あんまり見せるものではありませんよ、貴方に限ってはね。それはある意味象徴です。あの男たちや死んだ人間が得たくても得ることができなかった力のね」

 その力が何か、分かりそうもないのだけれども。


09

mokuji