さて、ドレスが必要だということは貴族と呼ばれる連中のパーティーのためらしい。どうやら、ある一定の領地がある彼ら――貴族と言われる地位が保証された連中はこう言った馬鹿げた騒ぎが好きなのだろう。そこはいい情報源になりうる。こちら側にとっても、世界帝に対抗せんとする勢力にも。話を聞けば顔を隠すために仮面さえつけて、彼らは中世のパーティーのように過ごすのだという。
そして、もう一着、軍服は、このガスマスクは。
「皇帝! 何故ですか!」
そう口を開いたのはあのザイルと呼ばれた小太りな男である。私のそばにいた皇帝と呼ばれる男は階段の踊り場にいる彼を見下ろした。将軍と呼ばれた三人のうち一人が口を開く。
「見てわからないのか。この子は選ばれた」
「選ばれた? ただの学生の、こんな地位も名誉もないこのガキが!?」
当てはまるな、と思いながら彼を見下ろせば、彼は足音を鳴らしてこちらにやってくる。いかがしますか、と小さく呟いた将軍達に皇帝と呼ばれた男はただ放っておけと告げる。ガスマスクをつけた私を確認した彼は私をまた見下ろした。
「時間だ、行くぞ。おいで、ハル」
コツコツと足音を立てて彼は、彼らは歩き出す。それに伴い歩き出せばコツコツと靴はまた音を立てた。
「お待ちください、陛下!」
その言葉に彼は待つことはない。
「待て、待つんだ、このクソガキ!」
吐かれた言葉にすましていればそばにいた男が私をまた見下ろした。
「無視した方がいいんでしょう?」
「わかっているようで結構」
掴みかかってきた男の手をひらりと避ければ彼は転倒したらしい。扉のそばにいた兵士が扉を開けた。皇帝がその先に足を踏み出し――私もまたその先に足を踏み出した。その先に並んだ兵士を幾千の人を見る。その近くに並んでいるのはファルさん達だろう。一斉に敬礼をした彼らに「あぁ、これはまさしく軍事国家だな」と思う。
「今日、残った国々が我らに降伏した」
そう高らかに告げた皇帝を見つめる。
「世界は一つに統一されたのだ! この世界は真に戦争のない平和な世界に生まれ変わった」
そんなことはありもしない。それは私だけでなく恐らくは彼も隣に並ぶだろう人達も理解しているのである。ただ、何も知らない民衆はそれを信じ、湧き上がる。それはあの国の人たちに似ていた。
「我々は共に進もうではないか、平和な道筋へ。何も恐れることもない未来へ。我々は勝利したのだ」
彼の言葉にまた歓声が上がった。最後に戦死した者達へ敬礼と黙祷を捧げた彼らに同じく黙祷を捧げる。歓声の中、演説を終えた彼は一足先に部屋に入る。私もまた、そばにいた将軍に背を押されるように中に入って息を吐いた。見られては居ないだろうが、あまりいい気分ではない。二度目である。しかし、前はもう少し人が少なかった。そもそも、あの任務で亡命を装っていなければ、私もジャックも列に並んでいる方だろう。
また足音が聞こえてやってくる。そちらを見ればあの男がまだいた。
「陛下! ご説明を!」
「説明も何も、彼女は他の将と同じように石に選ばれた」
「そんなもの、偶然でしょう?」
「そうだろうな、だが、そうでもない」
彼は淡々とそう言ってこの話は辞めだと告げる。男は私を見下ろした。
「こんな小娘、ただの穀喰い虫だ。どうせすぐに死ぬ」
その言葉に皇帝が少し眉間にしわを寄せた。それを見て口を開く。
「お言葉ですが、サー。私がすぐに死ぬとお分かりなのであれば、そんなに焦らずとも良いのではありませんか? 何を焦っていらっしゃるのです」
私の言葉に彼は目を見開き、笑った。あぁ、そうだとも、と。失礼と頭を下げた男に、これは男が私を殺しに、正しくは男が誰かを差し向けてくるなと思う。男の背中を見送りながら、口を開く。
「この国の法律に正当防衛ってありますか?」
「まだ法律の整備は進んでいない、ある意味無法地帯だ」
「陛下、彼女の部屋を変えた方がいいのでは。あの部屋は元々あの男が懇意にしていた女たちの部屋でしょう?」
「そうだな……私の部屋に来るか?」
皇帝がそう笑いながら告げる。ご冗談を、と笑いながら返せば彼は「一番安全なんだがな。まぁ、冗談だ」と笑った。
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