結局である。彼は誰一人つけることを拒んだ。というのも、彼は彼らが私の言うことの方が聞くと理解しているからだ。私が彼のいうことを聞くようにと言っているのを理解している。
 ――不完全な彼の力で人の姿になっていた彼らは、一度本来の力で元の姿に戻った。そして、今度は私の力で彼らはまた人の姿になった。
 そう、彼らは人ではなく銃である。皇帝のいう力とはこういうことであったらしい。最初はそういう記憶を植え付けられたのかと思ったが、実際にそうなる瞬間を見て仕舞えば現実だと理解した。
 ガスマスクをつけずに町の中を歩く。もうすっかりと私の顔は世間にバレている。この隣をいく男がそれを良しとし、私を連れ出す時は必ずマスクを外させるからだ。ガスマスクの意味とは。皇帝は最初は眉間にシワを寄せていたが今では半ば諦めているがゆえ、あの城にも似た建物から私を出すのを良しとしていない。

「この店に入るからお前はしばらくここで待っていろ」

 そう告げた彼にイエス、サーと返答して店の外に立つ。周りの人はザワザワと騒ぐが、何もしてこない為にまだマシだろう。店の壁に背を持たれてそっと目を伏せる。微かに聞こえたシキノさん? という声に私はそちらを見た。パチリとあった視線に、彼女は目を瞬いて私をみる。どこかで見たことがある顔だ。

「あぁ、やっぱりシキノさんだ! 良かった、無事だったんだ!」
「君は……確か同じ高校の」
「覚えててくれたの!? 嬉しい!」
「でも、ごめんなさい、名前はわからない」

 そういえば彼女はガックシと肩を落とした。

「そうだよね、話したことなかったよね、同じ委員会だっただけだもんね……私、ユキノ サチ。A組だったの」
「そう、貴女が無事で良かった」

 そうそっと頭を撫でれば彼女はシキノさんこそ、と言いかけて私の眼帯を見たのだろう。あぁこれは、と眼帯に触り、彼女を見下ろした。

「君はまだあの国に?」
「ううん、あの後、ちょっと色々あって連れ出してもらったの」
「最近?」
「いや、うーん、あの後すぐって言っちゃすぐかな」

 そんなただの会話である。しかしながら、それは大きな足音と共にかき消された。

「サチ! 何してるんだ!」
「あ! キョードーさん、この子は同級生で――」
「……同級生?」
「えぇ、まぁ、同じ高校に通っていました」

 やってきた彼は恐らく私が何であるか知っているのだろう。そして、焦りようからして、彼は、彼女は。

「シキノさんは?」
「流れ流れていまここで暮らしてる」
「へぇ、じゃあ今度案内してよ!」
「また、いつか、ね。私もあんまり街に出れるわけじゃないから」

 キョードーと呼ばれた男の、そして、彼女の周りにいる人物たちの眉間に少しシワが刻まれる。ゆっくりと手元を後ろに回していく彼らに、緩やかに笑う。ザワザワとした声がして、近くに車が止まった。

「ハル、何してるんだ?」
「ミスターザイルの買い物に付き合っています」

 窓を開けて顔を出したのはいつもよりラフな格好をした陛下である。

「またか、断ればいいものを……彼らは?」
「彼女は日本にいた頃の友人です。他は彼女の知り合いだと」
「そうか、悪いな、再会の会話中に」
「いえ、」
「ハル、帰ろうか。店に顔を出す必要もないんだろう?」
「……えぇ、はい。あの人を置いて帰ってもいいんですか?」
「俺から言っておくさ」

 そう手招いた彼にならば帰るかと思いながら近づく。車の扉を開けた彼に乗り込む際に彼女を見てひらりと手を振った。

「またね、」
「あぁ、うん、」

 扉を閉めれば車は走り出す。ちらりとバックミラー越しで彼は後ろを見た。

「本当に知り合いか?」
「えぇ、一応は。周りにいたのは恐らくレジスタンスですかね。みんな何かを取り出そうとしていた」
「そこまでわかっているなら助けを呼んでくれ」
「あの子は何も知らなさそうだったので。もうバレてるでしょうけど」

 そう告げた私に彼は私を見下ろす。

「殺せるのか?」
「命令なら引き金を引けます」
「心を偽って?」
「そうですね、でももしかしたら」

 窓の外を見る。いつだって私は詰めが甘いのだ。

「――最後には本心をこぼしてしまうかもしれない」

 窓を見つめてそうつぶやけば、彼はこちらを見て息を飲んで私を見たのが窓に反射してみえた。

「まるで、」

 彼はそう諦めたように笑う。目を伏せて、なにかを否定するように。

「自分がそうしたことがあるような喋り方だな」
「一度だけ、そうしたことがあります」

 私の言葉に彼は体を起こして私をみた。

「いつ、」
「夢の中で」

 緩やかに目を伏せて告げる。

「残酷な呪いをかけて、私は目覚めてしまいました」
「呪い、」
「最後まで嫌いだと言えばきっと夢の中のあの人は縛られることもなく悔いもなくあの後を生きたでしょう」

 私の言葉に彼は小さく「ハル、?」と私の名前を呼んだ。私はそちらを見る。目を大きく見開いた彼は、何かを確かめるように私に触れた。その様子に頭の中で合致する。既視感の理由を理解する。似た仕草をする理由も。
 ジャック? と微かに私が呼んだことで彼は何とも言えない顔をしていた。歓喜、戸惑い、複雑、嫉妬に似たなにか、そんなものが渦巻いたように。息を呑んで。しかし、彼は私の知る彼でない。ぐるぐるといろいろなものを押し殺したような彼は静かに私を抱き寄せた。


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mokuji