部屋に帰るとソファに座らされ、血だらけになった眼帯を外される。目を開くことはできそうもないが、出血部位は恐らくその辺りだろう。タオルを押し当てて息を吐く。この傷の厄介なところは目であるが上に処置が難しいことだ。
「ゴースト、マスターを見ておけ。ハル付の衛生兵をつれてくる」
「わかった」
ぐしゃりと私の頭を撫でてアインスが部屋を出る。心配そうな表情をしたゴーストにもう一度大丈夫だと笑ったが、体はソファに沈んだ。
――白い花びらが舞うそこで、誰かがいる。その姿には見覚えがあった。嫌悪と呼ばれたあの世界の養父である。彼は私を見て微かに名を紡ぐ。ハル、と。しかし、それに近づこうとすれば強い風が吹いて目を覚ました。
目を覚ませば自分の部屋ではない。医務室とよばれる場所である。どうやら処置のために移動したらしい。重い体を引きずるように起き上がろうとすれば、物音に気付いたらしいメディックが寄ってきた。
「ハル様、無理はいけない」
彼はそう言って私を寝かした。大丈夫、といったところで顔が青いとかれは怒るのだろう。諦めて医務室のベッドに寝転ぶ。
「どれくらい寝てましたか?」
「一週間ほど」
彼の言葉に起き上がろうとすれば、ダメだって言ったでしょう、と怒られる。
「陛下からの言付けです。潜入者の件は片付いたから安心してくれ、寝てろと。それとザイル様から力の反応が消えたとも」
「力の反応が消えた?」
「ええ。荊が彼の腕を支配し、腐敗を始めたんです。あのままでは命に関わる為切り落とした、が正解なのですが」
「完全にあの人の力が無くなったから、彼らは元の姿に戻ったのか。きちんと上書きできてなかったのか」
「恐らくは。今はお休みください。私は陛下に報告をして参ります。私がいなくなったからといってどこかに行かないように」
そう釘を刺した彼に、無言の抵抗をすれば、返事は、と言われる。はい、と返事すれば彼は部屋から出た。
「どこかに行くなとは言われたが、起き上がるなとは言われてない」
そう言って重い体を起き上がらせる。ベッドから降りて窓側に移動した。何も変わらないということは大きな損害もなかったんだろう。タバコを拝借しようかとタバコのケースを触りかけたところで扉が開いた。
「ハル、何しようとしてた?」
「陛下、いえ、タバコを拝借しようかと」
「ダメだ、命を縮めるぞ。あと、起き上がるな」
「陛下だって葉巻を吸うでしょう」
「俺は老い先が短いからいい。主治医の命令だ。ベッドに戻れ」
そう私を抱えた彼は少し眉間にシワをよせ、私をベッドに戻す。何か? と尋ねれば何もと言われてしまったが。
「銃達は?」
「実体化している銃は作戦に動員している。されてない銃は今あのメディックに持って来させている」
「止められるかと」
「止めてもやるだろう? さっきみたいに」
忠告した彼にバレていると苦笑いする。彼は息を吐いて私の髪をすいた。
「無理をして欲しくない」
「それは貴方がジャックの記憶を持つから?」
「……あぁ、そうだな」
「エイバブ陛下に教えるならば、人は遅かれ早かれ死ぬよ」
「だが、君は前でさえも短いというのに」
「もっと短い人もいるさ、貴方が気にすることじゃない」
「だが、俺が怒られてしまうな、あの人に」
「私はどうもそういう運命なんだよ、陛下。気にしてはいけない」
そう言えば、彼は髪をすいていた手を止める。近づいてきた顔にそっと目を伏せた。リップ音と共に離れたそれに目をゆっくり開く。顔を見る前に、抱き寄せられてしまったけれど。
「君がこうしてくれるのも、俺があの人の記憶を持つからか」
「さぁ、よくわからない」
言葉を濁して、大きく息を吸った。
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