消えていく感覚がする。喪失感ともいうのか。流れる血の涙を拭う。一人一人、足止めに向かった銃達は帰ってくることはない。寝返ったのだろうかとも思ったが、喪失感からして違うのだろう。
「酷い顔ですね。よっぽど私たちが消えることがつらいですか」
アインスに「マスターのそばについていろ」と言われたファルは私のそばにいた。彼の言葉に「そうだな」と目を瞑る。彼はそっと私の膝の上に銃を置いた。彼の本体とも言えるものだ。
「貴方が使えばいい。私の最後は貴方にお任せしますよ」
その言葉とともに彼は紫色の光の粉を纏って消えた。伸ばした手は空振りに終わる。広い空間に一人きりになってしまった。昔は此処で華やかなパーティーが開かれていたが今はそんな面影もない。
そっと銃を撫でて扉を見た。勢いよく開いた扉の先には古銃やレジスタンス達がいる。そして、ジャックもあの子もいる。銃口を向けた彼らにそっと目を伏せた。
「あぁ、全員負けてしまったか」
「現代銃の奴らのことか? それとも兵士のことか?」
「両方だよ」
頬杖をついて彼らを見た。彼らには私がどう映っているのだろうか。ちらほらとレジスタンスに見たことがある人間がいるのを見るとやはりこちら側から寝返った人も多いのだろう。私と同じく歳を重ねた彼女は口を開く。
「ねぇ、シキノさん、どうして、」
「君のいう『どうして』は難しいね。どうして逃げなかったの? と言いたいのか、どうして世界帝についたの? と言いたいのか」
「違う、どうしてあんなことをしたの!」
「あんなこと?」
「どうして現代銃達に命令して虐殺まがいなことをしたの!」
「忘れたとは言わせないぞ! 三年前のあの大虐殺を!」
あぁ、と頭の中で思い起こす。私の前のマスター、すなわち武力を履き間違えたあの男――ザイルがやったことだ。世間ではどうやら私がやったことになっているらしい。まぁ、どちらがやったかは――真実は彼らが知らなくてもいいことだ。
「さて、どうしてだろう」
そう少し笑んで彼らを見る。
「あの虐殺でどれほどの人が死んだと思っている!」
「知らないな」
「こいつっ」
「では逆に尋ねよう。君たちとの戦闘でどれほどの世界帝の兵士が死んだと思っているんだ?」
そう言って彼らを見下ろす。
「彼らとレジスタンス、民間人はなんら変わらない。彼らにも故郷があり、家族があった。君たちはそれを奇襲し撃ち殺したね。虐殺となんら変わらない。君たちが殺した数を把握できていないように、彼らもまた把握などしていない。君たちを呼び出した彼女がその死体の数を知らないように私もまた知らない。それだけだ」
「ふざけるな! 俺たちには正義がある!」
古くから人間の歴史を見てきたというのに、どうしてそんなにも夢見がちなのか。私は冷ややかに彼らを見た。
「知らないのか。正義とは常に勝者の言い分だ」
「……あぁ、そうだな」
静かに頷いたのはジャックである。彼は青年やあの子、古銃達を下がらせて一歩前に立った。
「戦争は、どちらも悪だ。勝った方が正義とされ英雄として祝福をうけるが、負けた方は永遠に憎まれそして戦犯として歴史に名をのこす」
彼は静かにそう言って私を見上げた。
「真実は闇に埋もれ、塗り固められた嘘だけが残ってしまう」
「世界とは――歴史とはそういうものだよ、ジャック。それは君も嫌というほど理解しているだろう」
カツン、と彼が足音を立ててやってくる。
「ハル、本当のことを教えてくれ」
「私が命令したよ」
「嘘だろう?」
「本当だ」
「君は相変わらず嘘がうまいな」
カツンカツンと彼が近づく。目の前で止まった彼は私を見た。泣きそうな顔で。
「ハル、ひとつだけ教えてくれ、どうしたら俺は君と生きられる?」
「ひとつ言うのであれば、それはできないよ、ジョン。そう言う運命なのさ。君は英雄として生き続け――私はその対として生きる。君には――君たちは幸せな終わりを迎えるが、私はそうではない」
そっと目を閉じる。そう、私は常にハッピーエンドの外側にいるのだ。幸せな終わりを迎えてはいけない、英雄の対にいるのである。あの時はコブラ部隊を巻き込んだが今回は銃達を巻き込んで終わりに足を進めるのだ。ああくだらないことを喋ってしまったな、と息を吐く。
「無駄話は終わりにしよう、スネーク。陛下が真にやりたいことは後十分もあれば終わるだろう。さぁ、ジャック」
そうして、私は彼に銃口を向けた。微笑んで。あのときと同じように。
「――最高の十分間にしよう」
そう言って、引き金を引いた。
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