異様な空間である。ガスマスクをつけた男たちばかりの空間だ。小太りのあの男は別の場所にいるのを見ると彼は位が高いらしい。わたしについて交わされる英語の会話を無視して目を瞑る。少し神経を尖らせたままだ。これが夢であればいいのだが、実際はそうではない。
 交わされる英語も様々だ。東欧訛り、ドイツ訛り、それに合わせて日本訛りが聞こえる。近づいた足音に目をゆっくりと開ける。そこにいたのは青年である。何かボードに文字を書いた彼はわたしに見せる。おまえ、いいにおいする、たべもの、ちょうだい! そう書かれた文字に、ああ飴ならあるな、と上着のポケットからドロップ缶を取り出した。少し身構えた彼らに迷彩服を着た男がこちらを見た。
「まさかのJKがドロップ缶」
 日本語である。日本人なのだろうか。とりあえずドロップ缶を振って青年の手の上に飴を出す。丁度青年の髪と同じ緑色である。それを口に含んだ彼は上機嫌になった。苦笑いをしてもう一度目を伏せようとすれば「英語は読めるのか」と声が聞こえた。

「えぇ、彼女は成績優秀ですからね。恐らくは我々の言葉も理解できますし、英語も喋れるでしょう」
「あら、理解できてるのに黙ってたの?」
「まぁ、我々だけで会話が終わっていましたしね。ねぇ、シキノさん」

 振られた言葉に、ため息をついて、ええそうですね、と返す。

「綺麗な英語ね。元西側の発音だけど」
「……ありがとうございます」
「名前は?」
「シキノハルです。ファミリーネームがシキノです」
「ねぇ、いまどんな気分?」

 そう見上げたのは少年である。

「住んでいた場所を焼け野原にされて、どんな気分? 家族を残してきちゃったね、死んじゃってるんじゃない?」

 ニコニコと、毒を吐く彼に、そうですね、と目を伏せた。

「全てが夢であれと思います」

 そう、全てが夢であればいい。あそこで、ジャックに殺される。それが現実であればいい。つまんなそうな表情をした彼に笑みを浮かべた。

「泣き喚いて欲しかったんですか? それとも罵倒、絶望すればよかったですか。すいませんね、静かで」
「こういう子なんですよねぇ、この子」

 先生が可笑しそうにそういった。変わった子供だな、と呟いた男性は目を伏せた。


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mokuji