値踏みをされているのだろうと思う。どこの貴族の晩餐会だろうか。長い机の一番奥、私の正面にいるのはあの壮年の男性であるのを見ると彼は一番偉いらしい。左右に並ぶのは男性ばかりで、若そうな人といえばあの小太りな男のそばに座る彼らくらいだろうか。まだ子供だとか、なんとか、そう口々にぼやく彼らは権力者なのだろう。哀れな子供だ、と呟いた誰か。二、三人いる軍服を着た男は黙ったままであるが。
 こういう席での立ち振る舞いは理解している。何故ならボスに叩き込まれ、またタチアナ――正しくはエヴァとも話をしたからだ。にこり、と人の良い笑顔を浮かべる。

「このような場所に只の日本人の学生をお招きいただき、ありがとうございます」

 そうドレスをつまみあげて挨拶をする。一斉に向いた視線に、ああ勝負が始まったのだと理解する。値踏みだ。

「綺麗な英語だな、どこか留学を?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、自然に身についたといいますか」
「この場で泣きわめかないのは珍しい」
「生憎、すぐに先生――ミスターファルに連れ出して頂いたので実感がわかないのです。いえ、母親の教育のおかげでしょうか。ただ、こういう場ではきちんとしなさいと」

 そう少し表情を落として告げる。立っていてはという言葉にアインスと呼ばれた男が椅子を引いた。ありがとうございますと笑んでそこに浅く座る。彼もまた席に着いた。
 そこからはただ運ばれた料理を口に運ぶだけ。それだけで彼らは次々と判断を下す。たまに年相応の少しのミスもする。まぁ、話を振ってくるのは貴族のような人だけで、軍服をきた人達は一向に話を振らないが。
 正面にいたあの男性と目があったので少し笑みを浮かべれば、彼は小太りな男を見た。

「お前はどうやらいい拾い物をしたらしい」
「いい拾い物? こんなただの小娘が、ですか?」
「あぁ、そうだ。少し興味が湧いた。将以外は席を外せ。お前もだ、ザライ。アインス達は残せ」

 そう言った彼に小太りな男が顔をしかめた。男は鋭い目で彼を見る。命令だと再度促した彼に私によく話を振った連中は席を外した。彼と軍服を着た男達がこちらを見る。

「さて、有意義な問答をしようか、ハル」

 腕をついた彼は私を見る。

「君は出来すぎている、ただの学生としては」
「そんなことは……」
「猫は被らなくていい。命の保証はする。君は何者だ?」
「言ったでしょう、実感がわかないただの学生だと」
「実感が湧かなくても普通は泣き喚くかここは何処か尋ねる」
「……ここに来る時、貴女達はいくつか飛行機を乗り継いだ。最短ルートじゃないということは教えたくない場所ということでしょう」
「そうだ、君は賢いな。ちなみにどこだと?」

 面白そうに尋ねたら彼に息を吐いて答える。

「貴方達が仮に日本政府が隠したい存在だったとして恐らく先の戦争で大国であったアメリカロシアの主要都市は核攻撃により多大なダメージをうけている。おそらくそこは除外される。かといって、街を見れば発展途上のそれではないし、気候的に赤道に近い場所でもない。東欧から中央アジアと考えるのが妥当かと。ただ、それも日本で得た知識の範囲内でしかありませんが」

 正解だと彼はまた口元に笑みを浮かべた。

「では、もう一つ君に一つ尋ねよう。この場で全員が君に銃口を向けれたとき、君はどうする?」

 物騒な言葉である。ピリッとした空気を無視して私はニコリと笑みを浮かべて頬杖をついた。

「そうですね、席を立たせていただきましょうか」

 神経を研ぎ澄ませる。誰かの動きに反応できるように。数秒の沈黙。そして彼は大笑いした。

「面白い。君は他と違うようだ」

 そう口元を覆った彼は私を見る。

「われらは君を歓迎しよう、ハル?」

 掲げられたワイングラスにグラスを傾ける。

「お気に召していただけたようで、ミスター」

06

mokuji