「オセロットと知り合いだったのか」
「……母親がね」
 彼女はそう言ってソファに沈むとクッションを抱えた。スネークは少し眉間に皺をよせる。彼女はただ淡々と口を開く。
「君たちのことだから、私の名前を調べたんだろう?ハル・クラウディア。ww2の英雄の一人に拾われた日系人で、後にソ連に亡命した人物。アメリカからは売国奴、そしてソ連からはイかれた奴と言われている人物」
「……そこまでは出てきていない。オタコンが調べたが、彼女は機密情報だった」
 スネークがイライラしたようにタバコに火をつける。そう、と、彼女は目を伏せた。そして、流し目で彼を見る。
「彼女のことが知りたいの?」
「ああ」
「――貴方は会ったことがないのに?」
「会ったことがなくても」
 恐らくハルの言う『彼女』の情報がわからなければハルの情報は出てこない。もしかしたら、ハルが愛国者の息がかかった人物である可能性がある。そんな不安を拭い去りたかったのだろう。そういう僕もそうだった。やっと掴んだ情報で、愛国者達が百年前に息絶えた人物であることが判明した今、僕らはある意味不安定だったのである。彼女もそれを理解していたんだろう。マグカップを持った彼女はいとも簡単に――いつものように口を開く。
「彼女は元々CIAにいた。貴方の父親がかの有名なビッグボスであるなら、貴方の父親と同じ人に師事した人――けれど、後に東側についた人。あの山猫さんとはどこかであったんでしょう」
 彼女はそう言って一度言葉を切ると、スネークをみる。
「――彼女は亡命した先で貴方の父親に殺された。」
 彼女は淡々と告げた。それをきいたスネークが目を見開き――そして、怒ったように口を開く。
「なら俺に近づいたのは復讐の為か!?」
「まさか。貴方と貴方の父親は違う人だから、貴方になにかをしても意味がない。そもそも、貴方の父親はこの国の命令に従った――この国に忠を尽くしただけ」
 ハルは何かを思い出すように、何かを悲しむようにスネークを見た。しかしながら、不自然だ。
「ハル、君はいつ生まれたんだい?彼女が情報通りに1960年代に死んだのなら、君はスネークや僕たちより年上のはずだよ」
 僕の言葉に彼女は目を伏せる。
「――記憶がないんだ」
 意外な返答だった。僕らはじっとハルを見つめる。彼女は自嘲するような笑みを浮かべた。
「記憶が?」
「そう。気づいたら、アラスカの民家にいた。雪の中を眠るように倒れていたんだっていわれた。どうしてそこにいたのかは知らない。知っているのは彼女のことと、彼女の周りのこと、知識だけ……他にはなにも」
 彼女はそう言ってスネークや僕を見上げた。そこで納得する。通りで彼女は知り合いが少なく、時事に疎いのだ。恐らく、名前もなにも思い出せない状況で彼女がとっさに名乗ったのが、ハル・クラウディアという女性の名前だったのだろう。母親であるというものも思い込みによるものかもしれない。
「ごめんなさい」
 彼女はそう言って静かに謝った。消え入りそうな声で、彼女は俯く。スネークは罰が悪そうに、しばらく黙って、いや、と首を左右に振った。
「俺も悪かった」
 彼女に手を回したスネークに、僕はそっと席を立つ。しばらく調べ物をするなり何なりすればいいだろう。

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mokuji