彼女が寄りたい、といった場所は誰もいない廃墟だった。その家だけが朽ち果てたような、いや、朽ち果てるというよりは何十年も人が出入りしていないことが伺えた。彼女はそれを見て、何かショックを受けたように佇んでいたけれど、あぁ、そうか、と悲しげに目を伏せた。彼女がポケットから取り出した鍵は、その家に対してまだ新しいもののように感じた。
「合うのか、それ」
「恐らくは」
なんとも不明確な答えである。彼女は少し戸惑ったように扉の前で佇むと、意を決して鍵をあけた。カチャリとなった音、彼女はそっと扉をあける。中もまた、外同様に埃がかぶっている。彼女は中を悠々とすすみ、彼女が心細そうに振り返ったので僕らも中に入った。それはいつもの彼女ではなく、ただただ、幼い子供のようだった。
リビングだろうか。中はまるで60年代で時を止めたようである。彼女は周りをみて、何かを見つけるとそこで足を止めた。沈黙に耐えかねて口を開く。
「埃が被ってるけど素敵な家だね。知り合いの家?」
「……いや、私の家だ」
そう返した彼女に僕はギョッとする。この、時間を止めたような家が?彼女はそれに付け加えるように、自嘲するように口を開いた。
「――母親の家だ」
「ハルの?」
「あぁ、もう、随分と昔にいなくなってしまったけれど。来る勇気がなかった」
「どうして?」
「現実に目を向けるのが、堪らなく辛かったから。でも、もういい。わかったから」
彼女はそう言ったものの、しばらくは動かなさそうである。スネークがある一点を見つけたまま動かないでいるので、彼女を励ますように声をかけようと彼の隣をみる。
――その色あせたセピアの写真には三人の人が写っている。一人は白人の女性である。もう一人はハルにそっくりな女性だった。恐らく、彼女の母親に値するんだろうとはすぐにわかる。ただ、もう一人が問題だった。スネークによく似た彼は、スネークが絶対に浮かべないような笑顔で笑っている。スネークが、なんとなしを装って、ハルの父親は?と尋ねた。彼女はようやく何かから顔を背けて、さぁな、と肩をすくめた。
「いこう、スネーク、オタコン。思い出に浸っても何の意味もない」
彼女はそう言って部屋を出た。僕らも続くようにそこから離れる。あの写真。
「他人の空似かな?」
「そうだといいがな。一緒に写っているだけで、父親だとは限らないだろう」
スネークはそう言いはしたが、それは単につよがりにしか聞こえなかった。そうして、この日から彼女はスネークをスネークと、そしてデイヴィッドと呼ぶようになった、と僕は記憶している。
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