「ハルがいなかったらどうなっていたことか」
 びしょ濡れになった彼女はシャワールームである。タンカーと一緒に沈みかけたスネークを救出したのだ。僕が船をつけて、彼女が気を失ったスネークを荒波の中から連れ出した。同じくびしょ濡れであるスネークはタオルを被って、湿気た煙草をくわえていた。
「あぁ、そうだな、毎度助かる」
「いやぁ、笑わせてもらった礼だよ」
 彼女がそう言って髪を拭きながらやってくる。その姿は見慣れたもので、最初はドギマギしていたが今はもう慣れた。変な気を起こしたって、彼女に取り押さえられるのがわかっているからだ。
 彼女は思い出したようにクスクスわらう。彼女がさすのはジアゼパムの話だろう。プラシーボ効果で船揺れが止まった彼に彼女は「意外と単純なんだな」とそばでケラケラ笑っていたのを思い出す。まぁ、そのあとはあれだ。僕としてはスネークが彼女宛の嫌がらせに心霊写真を送ってきたのだけど、僕が驚くだけで彼女は凄いなとしか言っておらず、スネークが躍起になっていたけれど。任務を遂行する分には別にいいのだが、どうもこの二人は偶にこういうことをする。勿論僕も混ざるけれど。
 言い返せないから黙ったスネークに、彼女は冗談だ、と近くにあった椅子に座る。
「それより、あの……滑稽な老人の言葉は本当なのか」
「何が」
「――君が作られた人間だとか、君の体が人より年を重ねるのが早いという話だ」
 彼女の言葉に、恐らく拗ねているスネークは「だったらどうなんだ?」と問いかける。
「愛想をつかすわけじゃないから安心しろ。ただ、君が心配なだけだよ。はやいうちに対策をとらないとこのままの生活をずっと送れないかもしれないだろう」
「――そんなことはない」
 そう言い切ったスネークに、彼女は安心したようだった。そうか、よかった、と心底から安心したように言った彼女に、少し微笑んだ彼女に、スネークが動きを止める。相変わらず一方通行らしいその気持ちを僕は理解できない、が、スネークは一応奮闘しているようだ。色々な葛藤を含めて。
 ――彼女はビッグボス の子供ではないか。
 そんな疑問が浮かんだのは、あの家を訪れてからである。彼女があの写真の女性の血を引くのは確かだった。そっくりだったからだ。名前も彼女と同じ名前である。それをきいて、写真の女性は彼女なのでは、と思ったが本人が「じゃあ私はタイムスリップしてきたことになるな」と面白おかしく告げた。それもそうだ。写真は見るからに古く、また、スネークとそっくりな男がビッグボスだとしても彼女の今の年齢にかみ合わない。タイムスリップなんて理論や技術は今はまだ確立しておらず、アニメ等の創作の中でしかつくられていない。
 では、彼女の父親は? と聞けばやはり知らないらしい。
 僕がポロっと、写真のことを零せば、彼女の母親の話を聞けた。どうやら彼女の母親は軍にいて、写真の男とは同じ人に師事していたらしい。彼を父親と結びつけるのは率直であり、恐らく彼は母親を憎んでいる。「だからそんなことはありはしないさ」と彼女は言って、目を伏せたのだけど。
 ――閑話休題。血筋的な問題もあってか、スネークは彼女に奥手だ。いや、普段から口だけ番長であるけれど。彼女には非常に奥手に見える。いや、彼女が交わしているのも理由の一つかもしれない。
「あんまり無理はしないことだ、スネーク」
 彼女はそう言って部屋を後にする。それを見送ったスネークがため息をついた。

 ――実際は、彼の体は老いてきている。人よりも早く。スネークが口を噤んでいるのは、彼女がシャドーモセスの一件を知らないからであるし、自分がどういう存在かも知らせていないからだ。そう、経歴はどうであれ、今の彼女はただの一般人なのである。
「いつかは教えないといけないと思うよ、スネーク」
 僕の言葉にスネークは何も答えずにタバコに火をつけた。

5

mokuji