奇術師は指揮棒を誰に託すか(5)

 ――どうして山之内恒星はこんな舞台設定にしたのか、だとか。
 ――どうしてメイドである桐江さんは居心地悪そうにしたのか、だとか。
 ――山之内恒星の遺稿は何処に行ったのか、だとか。
 そういう疑問点を手帳にあげる。そしてそれらを振り分ける。原稿は七海に動いてもらうのが早いだろうし、彼女の経歴は明智警視だろうか。いや、むしろこの屋敷の経歴を洗った方が早いのかもしれない。とりあえず、残業をしていただろう明智警視は頼めばすぐに動いてくれたし、寝そうになっていた七海にはたたき起こして今の状態を告げれば他にも呼びかけて動いてくれるらしい。相変わらず鼻がきくことで、とは双方に言われた言葉であるがこれは否定が出来ないな、と思わなくもない。
「そういえば、先ほど言っていた『山之内先生はトリックを捌き切れていない』とはどういう意味なんですか」
 犬飼くんがそう尋ねる。
「そのままの意味です。彼は自分の作ったはずであるトリックの長所をほとんど潰しているんです。それは貴方も同じです、梅園先生」
 そうはっきり言っておく。長所を潰す?と首をかしげたQクラスにうなずく。
「そうですね、いうならば計画を立てた人と実行犯が違うようなチグハグさ、でしょうか。探偵役が必要な小説ならばわざと崩すことも必要ですし、小説の中でも実行犯と計画者が違う場合はわざとそうしなければならない。しかし、彼の小説は探偵役が出てこない物が多い。だから――」
 そこで一度言葉を止める。だからなんなの、と告げた梅園先生に口を開く。
「――私はこう仮定していました。彼にはトリックを考える人が別にいるのだと」
「これは驚いた。貴方は山之内先生の盗作を疑っていたのですか!」
「盗作とはまだ断定できません。他人が彼に好意で譲ったと言うこともあり得ますから」
 スマートフォンが次々と震える。やってくるのは調べてほしいと頼んでいたことの資料だ。その中に添付された画像ファイルに口元に笑みを浮かべる。幽月さんが私を見てクスクス笑いながら口を開いた。
「あら、嬉しそうな顔ね」
「ええ、材料がそろいましたので」
 そう言って立ち上がる。こちらを向いたQクラスに、もう一度暗号に集中することといったが、様子を見るに解けたらしい。
「――最初の言葉を訂正させていただきたい。私たちが真っ先に謎を解いた場合、お渡ししたい方がいましたので」
 そう告げて手帳で口を隠す。
「渡したい方?」
「はい、この屋敷の経緯を調べてもらえば面白いことが判明したので。ね、そうでしょう?桐江さん」
 私はそう言って彼女の手をとる。
「かりそめの指揮棒なんて折ってしまいなさい。貴方は山之内恒星のマリオネットではないのだから」

10