奇術師は指揮棒を誰に託すか(4)
七海から来ていたメッセージにやっぱり何かありそうとだけ返信すれば、何かあれば連絡するようにというメッセージが来た。彼は関東から北海道まで飛んで来てくれるのだろうか。まぁ、生徒が怪我をしても一大事だろう。それと同時に別件で明智警視からメッセージが届いていたのでそれにも目に通す。一応ことのあらましを書いて今は向かえないことだけを伝えておいた。さて、一通りメッセージの返信を終え、同室のメグちゃん――瞬間記憶能力を持つ美南恵に声をかけておく。「メグちゃん、大丈夫ですか?紅一点辛くないですか?」
「あ、いえ、全然!他のクラスに女の子がいるので!それに、みんな優しいというか」
「何かあれば周りの大人に言ってくださいね。七海さんはああ見えて結構頼り甲斐があるので……」
「ははは……って、環先生って、七海先生と知り合いなんでしたっけ」
「はい、ちょっと事件の際にお世話になって」
口元を隠して少し照れたような演技をしておく。彼女はやはり年頃の女の子なので食いついたようだが。
「そ、それって、もしかして」
「なんでもありません!忘れてください」
そう慌てたような演技をしておく。まぁ目を輝かせたような彼女は可愛いらしい年頃の女の子である。私は少し恥ずかしがるように、ちらりとメグちゃんを見る。
「七海さんには言わないでください……」
「それは、もちろん!」
別に言ってくれても構わないのだけれど。そんな話をしていればキュウくん達が彼女を迎えに来て暗号解き大会が開催されたのだが。
四つの十時頃に部屋にもう一度集められる。十時の鐘を聞いてから有頭さんはもう一つの映像をテレビに流した。
次の映像といえば、酷く陰湿な内容である。やはり陰湿な男だな、と思いながら彼らの内情には知らない振りしておいた。幽月さんの身の上事情は知っているが私が手を差し伸べれることは少ないのである。さて、最後に残ったのは私に関することだ。周りが渋い顔をしているが、むしろ私は何を言われるかとワクワクしてしまう。私――というよりは『環ナマエ』に纏わる噂は色々ある。メディアに姿を表さない『環ナマエ』自体が推測、噂、そんなものの塊だ。元犯罪者という説もあれば、年老いた人間という説もあるし、醜い顔をしているからメディアに出てこないという説もある。彼がとったのはその最後の説である。あぁ、君には多額のお金が必要なのではないか、と告げた彼に見当外れもいいところだと思う。
「それとも――小説の話のネタにしたくてきたのだろうが。まぁせいぜい頑張り給え」
そう告げた画面の中の山之内恒星に拍手をしたくなる。
「あ、そこだけて当ててくるんですね、そこだけ大当たりです。そして私の彼に対する偽善者陰険ジジイという推測も大当たりでした。これは先に何か景品をもらいたい」
おちゃらけてそんな声を出してみる。周りの険悪な雰囲気は何一つ変わらないが。評論家の神明さんは腹を立てて部屋を出て行ってしまった。
――さて。このジジイ何かを絶対考えているに違いない。でなければ、こんな小説のような舞台は作らない。七海に調べてもらうか、と思っていれば眉間にシワ、と幽月さんに言われてしまった。
「どうかしたの?」
「いえ」
彼女が知り合いだったから、というのもある。思考に浸りかけていたから、ということもある。普段のように返してしまった返事に、眉尻を下げながら手帳で口元を隠し、猫をかぶった。
「……執事さん、山之内先生は死ぬ前に何か小説を書かれていませんでしたか?」
「そういえば、一つ何か書かれていました」
私の問いに執事さんは思い出すように告げた。それを聞いて驚くのは担当編集者である宝田さんだ。
「え、そのような話は聞いていません」
彼の反応を見るにそれは嘘ではない。
「担当編集に通っていませんし――遺作扱いになるんですから騒がれそうなのに世間に騒がれてもない……出版や校正は未だというところでしょうか。原稿用紙はどちらに?」
そう尋ねて見てもどうやら執事さんは知らないらしい。没にしたんだろうという梅園先生の言葉にそれならばいいと思うが。
「暗号はうら若き少年少女にお願いしてるので、私はそっちを当たりましょうか」
困ったように笑えば周りはきょとんとした顔をした。Qクラスのリュウくんが不思議そうに首をかしげる。
「その小説に何かあるんですか?」
「しばらく天気は崩れたままです。湖といえど、波は高くなりますから船は出せない、即ちここは陸の孤島になるわけです。そんなところに五日間も閉じ込められる。そんな場所にどうしてもお金を手に入れたい五人ないしが六人があつまる、だなんて使い古された舞台設計でしょう?」
彼の問いにそう答え、付け加えるように口を開く。。
「この時のパターンは三つ、六人の中に犯人がいる、犯人がどこかに隠れている、第三者の中に犯人がいる」
「まさか、全てフィクションですよ」
「そうですね、なにも起こらなければフィクションで済みますね。しかし、起こってしまえば当然話題になるでしょう。私はあの人の手の上で踊らされたくないんですよ」
そう言って私は周りを見る。メイドさんが少し居心地が悪そうにしているのが見えて、さて、どうするかと考えた。恐らく殺人が起こってしまえば――Qクラスを危険にさらすことにもなる。それは一教員として止めたいところだ。こうなってしまえば猫をかぶるとかそう言う問題ではなくなる。
「三時間、時間をください。彼の手の内を暴いて見せましょう」
手帳を閉じてそう告げる。まぁ、私自身ここから動けないので他に頑張ってもらうのだけれど。
「環先生、オレ達も何か手伝うよ!」
「君たちは暗号文の謎を解くように」
そう笑ってスマートフォンを取り出した。