奇術師は指揮棒を誰に託すか(6)

 どういうことだ、という誰かに答えをくれてやる探偵役。少しは考えてみないと、とおもうがヒントも何もなければわかるはずがないのだろう。
「さて、私が調べてもらっていたのは主に三つです。一つ、山之内恒星の遺稿の行方。二つ、この屋敷の経歴。これだけで多くが見えてきたのですが、核心に迫る物事は遠いので、三つ目を付け加えて」
 彼女から手を離し、私は手帳をポケットにしまう。
「驚いたことに、遺稿は私たちが集まった間に文芸冗談に送られる手はずになっていたようです。なぜ、担当編集者である宝田さんがいない間に送る手はずになっていたのでしょうかね」
「それは――」
 持ってきていたタブレットに送られてきた画像を映す。周りは声を上げる。
「露西亜館、新たなる殺人!?」
「あらすじはもっと面白いことになってますよ。露西亜館に集まったのは五人の楽器演奏者と一人の作曲家、そうして執事とメイド。亡くなった指揮者の遺産の謎を巡って、対立し、一人また一人と人が消える。そうして候補者は誰もいなくなった」
「――あら、面白いほど今のシュチュエーションに似てるわね」
 幽月さんの言葉に私はうなずいた。
「環先生、それなら遺産はどうなるんです?」
「そうよね、候補者がいなくなっちゃったら遺産は……」
 リュウ君の問いにメグちゃんが賛同する。
「謎を解いたメイドがもらうんです。その一文はこうです。『候補者が全員いないのであれば、これを先に見つけた物が遺産を全て手に入れる』」
「でも、実際がそうだとは限らないじゃない!」
「だから言ったでしょう?フィクションのままならいいですけどって」
「そこのメイドが私たちを殺すって言うのですか?」
「宝田さん、彼女は何もしていません。ただ、彼女が一番遺産を手にするにふさわしいと私は思います」
「なんでよ。納得できる話をちょうだい」
「この屋敷に昔住んでいたのは彼女と彼女の両親だったからです。時間がないのでそこまで詳しく調べられませんでしたが、彼女の父親と山之内恒星が知り合いだったことまでは調べがつきました。ここからは仮定の話ですが――」
 手帳を口元からおろす。
「もし、山之内恒星の作品のトリックが全て彼女の父親が書き上げた物であるのなら、そしてそれを無断で彼が使用しているのなら、彼女には財産を手に入れる権利がある。この中の誰よりもね」
「全ては仮定でしょ!」
 そう吠えた梅園先生に、私はチラリと桐江さんをみる。彼女は目をまん丸に見開いたまま、私を見ていた。桐江さん、と彼女を呼べば彼女は私を見た。
「私は貴方の味方になりたいだけです」
 似た境遇同士。それは言わない言葉だけれど。私は彼女に道を踏み外してほしくないのである。なぜなら――それは今の私の否定になるような気がして。私はそっと持っていた指揮棒を彼女に渡す。
「さすが、かの環先生といったところかしら。あの男とは全く違って地頭がいいのね。まるで本当の探偵みたいだわ」
 彼女はそう言って指揮棒を手に取った。
「そうよ、私はこの屋敷に住んでいたの。父親が貿易商をしていてね」
 彼女は息を吐いて、此処での思い出を告げる。

 ――楽しそうに父親が彼女にトリックを話す。自分が考えたトリックノートを手に。
 ――楽しそうに母親が私にマジックを教える。自分が考えたトリックをもとに。

 しかし、それは親の死という形で終止符がうたれたのだ。

 ――母親のいない彼女はどん底を生きた。時には体を売ってまでも生に食いついた。
 ――父親のいない私に疑問がつきまとう。なぜ母親が死んだのか。

 ――偶然会った山之内恒星。渡された作品は父親の作り上げたトリックで。
 ――偶然足を運んだ魔術団。演じられているマジックは母親の作り上げたトリックで。

 そうしてたどり着いた真実に、彼女/私は殺意を抱いたのだ。

 彼女は山之内恒星の持つ遺産の全てを手に入れるはずだった。父親が作品として公開していれば、ここにある全てが彼女の物になるはずだった。
「だから、殺そうとしたっていうの? 私たちを」
 幽月さんの発言に私はそっと首を左右に振る。
「いいえ、けしかけたのは山之内恒星でしょう。恐らく彼女は一番に謎を解き明かした」
 私はそう言って近くの椅子に腰掛ける。
「さて、少年探偵団諸君、貴方達の出番です。暗号は解けているのでしょう?」
 私の言葉に彼らは元気よく返事をしたのだけども。

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