奇術師は指揮棒を誰に託すか(7)
「暗号を解き明かす為のヒント――」そう元気よく声を上げたキュウくんは続けて口を開く。
「人形の身長と、楽器の大きさだよ!」
「楽器の大きさ?」
「この人形の持つ楽器の大きさですよ。全てが統一した大きさになってるんです」
リュウくんがそう言って口を開く。
「楽器の大きさと人形の大きさを元に実際の身長を割り出していくんです」
「例えば、コントラバスのイワンなら楽器の大きさと人形の大きさは一緒! コントラバスの大きさは調べてみると二メートルだから、イワンの大きさも二メートル!」
さすがはソフトやアプリを開発しているカズマくんだ。やはり数学に強いのだろう。
「それと同じように他の人形の大きさを割り出していくと、チェロのエミールは180センチ、ビオラのオリガは130センチ、第二バイオリンのターニャは120センチ、第一バイオリンのコンスタンチンが150センチ!」
「で、その五人を背の低い順から並べて頭文字を拾うと――」
キュウくんがそう告げて紙に文字を書く。頭文字を拾うとTOKEIとなる。この屋敷にある時計は一つのみ。そして、次の一文、二番目の子のクビをを五番目の子のクビに並べてごらん、という言葉。その言葉の通り文字を並べてしまえばそれはIOすなわちアラビア数字の10になるというわけだ。
「キンタ、時計合わせてきて!」
「おうよ!」
そう言ってキンタ君が窓から降りていく。しばらくすると時計の時間を合わすことが出来たのか、ボーンという鐘の音が鳴り響いた。また上に上ってきた彼の手には箱がある。これは、と集まった彼らに有頭さんが中の紙をとった。
「私、山之内恒星の出題した暗号を解き明かし、この第二の遺書のありかを突き止めた物こそ我が遺産を手にすることになる。相続資格は六名の資格者。神明忠治、梅園薫、幽月来夢、宝田光二、犬飼高志。環ナマエに限られる」
「――ということは、貴方の物ね」
「それはおいておいて、その先をどうぞ」
私の言葉に有頭さんはまた口を開く。
「ただし、暗号解読の期限になった時点でこれら6名の有資格者がひとりも館にいなかった場合は――有資格者に限らず暗号解読者本人に譲るとする……!」
「フィクションで良かったですね?」
私はそう笑って手帳で口元を隠す。彼らは勢いよく桐江さんをみた。彼女は笑うことはない。それもそうだ、きっと殺すつもりだったからだ。
「――恐らく貴方は真っ先にこの暗号を解いたんでしょう」
「――あ、もしかして、さっき、時計が五分早くなったのは……」
キュウ君がそう告げて彼女を見た。彼女は小さくうなずいた。
「よかったわね、命があって」
吐き捨てるように告げた彼女に有頭さんが私をみた。
「しかし、遺産は――」
「幽月さん、当面の仕事は私が保証しましょう。それと共に一部の著作の権利を貴方に譲渡します」
「――あら、いいのかしら」
目を瞬いた彼女にうなずく。
「貴方の場合、お金の途切れは人命に関わることだ。そして、宝田さんもある意味人命に関わっているので、宝田さんには無利子でお金を貸しましょう。返済してくださるのであれば期限は特に問いません。余裕が出来たときに返済していただければ構いません。気分が乗れば貴方宛に作品を送るとしましょうか」
「ありがとうございます!」
「神明先生は私の作品を辛く評論してもらうとして――梅園さんは作風を変えては?貴方はミステリーより男女の機微を描く方が向いていらっしゃると思います。一度今お遣いの名前を封じて新しいペンネームで小説を書いてみては?」
私の指摘に宝田さんもまたうなずく。
「ええ、そうですね。梅園先生はそちらの方が向いていらっしゃいます。文芸冗談でも枠が開いているので貴方がよろしければ」
そう言っても彼女はそっぽを向いたままであるが。
「犬飼くんは、申し訳ないですが他人の会社を肩代わりするだけのお金はありません。ただ、貴方の大切な猟犬を預かってもらえる場所を知っているのでそこに掛け合いましょう。あと、大学卒業までの学費分は払わせていただきましょうか。こちらも気が向いたら返してください」
「いいんですか?」
「若い芽を摘むことはしたくないので。さすがに留年分は出せませんが」
そう言って桐江さんをみる。
「さて、山之内恒星の遺産なのですが桐江さん、貴方に託しましょう。貴方に温情があるのであれば、いくらかを執事である田代さんにお渡しする事をおすすめしますが、それは貴方が決めることだ。有頭さんは今の全ての手続きをお願いしたいです。契約書やらなにやら色々必要でしょうから」
面倒なことは丸投げでいいだろう。とりあえず、神明先生以外の連絡先を聞いておく。大きくあくびをこぼしたQクラスに子供だなぁとおもうが、そもそも徹夜に近い状況だ。もう夜明けが近づいてきているのか外はうっすらと明るくなっている。
「さて、これで全ては万事解決、でしょうか」
そう笑って私は持っていた手帳を閉じた。