小説家は模造品を評価するか(5)



「で、Qクラスを誘ったのか?」
 不機嫌そうにムッとしている七海の問いに私は頷く。さて、彼らには小説の人物に化けてもらうのだからそれなりの服装をしてもらわなければならない。なので仕事終わりに七海を巻き込んでショッピングをしているわけである。だいたいQクラスの服は買えたし、私の服も買えた。大学院生の賢一くんに至っては恐らく私が指定しなくとも変な服は着ないだろう。あとは一着だけである。あれでもない、これでもないと思いながらワイシャツやらベストを選んでいく。そうして見つけた組み合わせをレジに持っていき、会計を済ませ――そのまま七海に渡す。
「ったく、今日は仕方なく荷物持ちに甘んじてやるけどな」
「それ、七海のだよ」
 そう告げれば彼はピシリと動きを止める。そしてこちらをみた。
「どうせ、脅迫文云々っていう内容の依頼来てるんでしょう?」
「……お見通しか」
「珍しく最近私の小説読んでたからね。しかも、古い話の。付箋までつけてたし。時期が時期だからお目付役ついてもおかしくないけど、団先生は何も言わなかったから」
 勉強熱心だなぁ、と思いながら告げる。きっと彼は私の想像通りの人になるのだろう。
「まぁ、これくらいの服なら私服でも着れるしね。七海、私服少ないし」
ケラケラと笑いながら言う。彼は表情を隠すように帽子を深くかぶってため息をついた。
「で、大学院生の賢一くんってのは?」
「あぁ、私の行きつけ喫茶店で知り合った年が近いであろう大学院生」
「おいおい、学生誑かすのもいい加減にしろよ?」
「いや、あれは多分私を誑かそうとしてると思う」
「はぁ?」
 私の言葉に七海は帽子をあげてこちらをみた。
「彼が天然物のそれなら私は彼を保護に走るね。私の思考についていける考察力を持ってるわ、小説のことを隅々まで覚えてるわ、あとは、的確に私の欲しい言葉を使う。あれは多分理由はどうであれ私に近づきたくて計算して外堀を埋めてるんだと思う。まぁ、害があるわけじゃないから放ってるのが現状」
 肩をすくめてそう告げる。七海は息を吐いて、あんまり誑かすなよ、と再度告げた。私は誑かしてないぞ、と不服に思いながら言えば七海が口を開く。
「お前が誑かされることなんてほぼほぼないとは思ってるが、無自覚なお前の方が厄介って俺は知ってるからな」
 厄介とは?と首をかしげる。それだよ、それ!と怒った彼は私からほかの荷物をぶんどったのだけれど。


 さて、日曜日である。何人ぐらいいるのか、とのぞけば全員いた。大変よろしい。最悪、キュウくんとメグちゃんだけかと思った。教室に向かうなりこちらを向いた彼らに私は口を開く。
「おはようございます、諸君。早速ですが、この服に着替えて――この設定を頭に叩き込んでください」
「服?設定?」
「一応、彼らは貴方達をモデルにしていますが、貴方達とイコールではありません。一人称二人称、名前、好むもの。違いはあるでしょうし」
「キュウ、七海先生も言ってたでしょ?架空の人物になり切るのも変装術の訓練になるって」
 おっと、なんらかのフォローが七海から入ったから脅迫文のことを知らされたかのどちらかだろう。
「ほら、はやく。時間は待ってくれませんから」
 そう手を叩く。ちなみに私は火傷の跡をいつものように隠し、チェーンがついた眼鏡をかけ――小説に登場する彼らの『先生』の姿をしている。まぁ、作中では男も女もまだ書いていないので性別はわからないようにするつもりではあるが。
 しばらくして着替えてきた男子四人の髪型を整え、彼らの呼び名を変えるように指示をする。最後にやってきたボーイッシュなメグちゃんの髪型をいつものツインテールからポニーテールに変えて細いリボンで結べばオッケーだ。
「えーと、私は『僕』って言わないといけないのよね」
「キンタはほとんどそのままじゃないか」
「でも口調が違うんだよ……」
「そうか、先生はそのまま『先生』って言えばいい話なんですね!」
 ニコニコしているキュウくんに、私は頷く。リュウくんが首を傾げた。
「先生、もう一人の方は誰に?」
「あぁ、彼の待ち合わせ場所は別なんです。そろそろ移動しましょうか」
 そう促せば彼らは返事をしたのだけど。


 さて、いつもの喫茶店の前――ではなく、駅前である。車の前で佇んでいる彼は絵になる男だ。私を見つけた彼はその顔を笑顔に変えてひらりと手を振った。キュウくんがポツリと口を開く。
「あの服装は……」
「怪盗鷹の目シリーズのホークこと大鷹大翔ですねぇ。やっぱりこうきたか、という感じです。自分をよく分かってらっしゃる」
「やっぱりですか!」
 キラキラと目を輝かせたキュウくんに、賢一くんもまたこちらをみた。
「なるほど、たしかに放課後事件ノートの少年探偵団と『先生』だ」
 そう告げた彼は車のロックを解除した。大学院生とは思えない車に乗っている。ハンドルを見るに外車だろうか。
「『先生』は助手席でいいですか?」
「私はどこでも構いませんよ」
「では、助手席へ。君たちは悪いけど後ろに乗ってくれるかい?」
 そう促した賢一に彼らは返事をして乗り込む。私は助手席に乗り、彼は運転席に座った。私はただ前を見て口を開く。
「何か起こると思います?」
「さぁ?何かあっても僕の役回りは怪盗、貴方は小説家でしかないので殺されることはないでしょう」
 口元に笑みを浮かべた彼に、私は頬杖をついた。何もなければ笑い話、であるが。


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