小説家は模造品を評価するか(8)
その光景をじっと見つめてしまったのは、私が思い描いたものが現実に現れたから、だとは認めたくはない。認めたくはないが――絵画のようなその光景にある一定数はそこを見つめた。それが気にくわないために、舞台の上に向かう。その途中で医大生だと名乗っていた飯塚ヤマトの首根っこをつかみ、大鷹くんに幕を下ろすよう頼む。同じようにやってきていた飯塚龍一も舞台に上がった。
私はこのトリックを知っている。何故なら私が作り上げたトリックだからた。だから、当然上を見上げる。その近くで脈の確認などをした飯塚ヤマトは小さく「ひえっ」と声を上げた。
「死んでる……」
「そこの従業員は警察と救急車を呼んでくれ。いますぐに」
そう指示をした『飯塚龍一』に従業員はかけていく。程なくして幕が下り、舞台とそこは遮断された。
「さっきまでは、なかったよな……」
震える声で訪ねた飯塚ヤマトくんに、そうですね、と肯定する。賢一くんはその死体をみてどこかうっとりしたように口を開く。
「まるで、環ナマエの作品ですね。絵画のようだ」
「やめておけ、人聞きの悪い、と、言いたいところだが――」
眉間にシワを寄せた彼は私をみる。私はそれに答えるように告げる。
「『22分の4の殺人』のトリックですね」
「22分の4?」
「先生!」
バタバタとやってきたのはQクラスと一部の参加者だ。きゃっと小さく悲鳴をあげた女の子は格好からして恐らくは「飯塚アキ」だろうか。もう一人、女性が口を開く。
「ちょっと、いつも佐藤刑事してた人じゃない!?」
「知り合いですか?」
「あ、こら、おまえら、ガキが見ていいものじゃないぞ!」
そう叱った飯塚ヤマトに五人はごめんなさいと謝るが退く気はないらしい。
「それより、先生、さっきの22分の4の殺人って……」
「おや、ファンクラブの方ならばご存知かと思ったんですが」
私の台詞に同じく飯塚龍一が頷く。しかしながら、それに否を唱えたのはQクラスである。
「初めて聞くタイトルだけど……」
「そりゃあそうだろ!22分の4の殺人は再推理シリーズの一番初めの話だ!」
飯塚ヤマトくんの言葉にそうだったっけな、と思う。そういや一つ原稿が行方不明になったとか言って本に収録されていなかったと思いだす。データはあるのだが、面倒くさい為放置した気がする。またもや女性が口を開く。
「当時、雑誌の読み切りに掲載されて人気が出たのに、飯塚龍一の一番はじめに出たハードカバーには乗らなかったのよ。プレミアよ、プレミア。その雑誌は数百万から数千万で取引されてるって話よ」
賢一くんとQクラスがこちらをみる。私は知らなかったので肩をすくめる。
「先生持ってるんですか!」
「持ってますね」
データを、という言葉は飲み込んでおく。周りがギョッと私を見た。
「た、高宮先生、いや、本名知らないけど、今度借りても……?」
「構いませんよ。ただちょっと待ってほしいところです。環#name1#の作品には所々欠番がありますが――皆さま持ってない感じですか?」
私の問いに飯塚アキに扮している女の子が口を開く。
「再推理シリーズの欠番なら、彼が持っていたと思います……欠番はどれも今は高額すぎて私は手を出せません」
その話に、内心あちゃあと思う。これは欠番シリーズと銘打って販売するべきかもしれない。リュウくんがこちらを見上げて再度口を開く。
「ちなみに先生は欠番の類を全て?」
「持ってますね」
「欠番の中身をあなたは全て」
「知ってます。このトリックもね。あと、探偵団諸君にどうでもいいヒントを告げるなら――」
「環ナマエの作品のトリックは小説のようにはいかない。違いますか、高宮さん」
飯塚龍一の言葉に私は「さすが同業者」と口を開く。
「そうです。彼ないしは彼女の作中のトリックは現実では同じように必ずならないようになっています。それがどういう形であれ。それは『飯塚龍一』も同じです。だから彼は唯一事件現場の粗を見つけることができる」
そこまで告げて、パッと表情を笑い顔に変える。
「ま、高宮一葉は登場して間もないのでわからないんですけどね」
「うっ……うっ……この人の考察面白い……お話聞きたい……」
「褒めても何も出ませんよ、飯塚アキさん?そう言えば家族勢揃いですねぇ。環ナマエは名探偵連続殺人事件と称されていましたし、大鷹くんと探偵団以外は名探偵な訳ですし、お気をつけくださいね。原作でも引きこもり作家の私は部屋に引きこもりましょうか」
そうひらりと手を振る。捜査はQクラスに任せても構わないだろうし、七海がいるので大丈夫だろう。逃げる気?と尋ねた女性に、まさか、と肩をすくめる。
「神に誓って私は部屋から一歩も出ませんよ。出るときは犯人の手にかかった時か――それとも事件が解決した時でしょう。少年たちに助言を送るならば、環ナマエの作品には後4つ欠番があります。気をつけなさい」
それだけ釘を刺してニコリと笑みを浮かべる。そして私はその部屋から立ち去ったのだ。