その手帳を残したのは誰か(1)
「手帳?」そう言って渡された代物を眺める。中をめくればどこかの住所や設計図がまとめられていた。そしてその中にあった一枚の紙は彼の設計したビルである。私にそれを渡してみせたこの連続事件の犯人は私をみた。
「君の父親から大人になった君達のうちの誰かにに渡してほしいと言われていてね」
嘲笑うような笑みである。父親、とは。あぁ、全くアイツの才能はアイツの父親譲りで嫌になると告げた彼は逮捕される前だというのに私を鼻で笑ってみせた。明智警視が興味を持ったのか私の横に立ち、それをみた。何かがずっと引っかかる私はそれを明智警視に渡す。何かを見落としている気がする。そう考えたところで、ある一つの可能性を理解して足を止めた。そして明智警視の腕を掴んだ。犯人が――森谷帝二が笑い声を上げたのが聞こえた。
「明智警視!時間がありません!私は先に渋谷にあるシティービルに向かいます!貴方は警視の権限であの辺りに立入規制してください」
そう一方的に投げかけて、私はその屋敷を後にする。近くに止めていたパトカーを拝借しそのままサイレンを鳴らしてその場を離れた。
この事件は、DDCにいる私宛に届いた招待状から物語ははじまる。私宛に届く爆破予告声明に明智警視を巻き込んで解決に乗り出したのだ。子供に与えられたラジコン、老婆のキャリーケース、線路の間。それらを全て片付けたのはいい。しかしながら事前に止められた他とは違い、今回ばかりは少し難しいだろう。パトカーをビルの付近に止め、そのまま中にいるコンシェルジュに自分の身分を告げ今の状況を告げた。爆破予告があることをいうとパニックになるためやめ、屋上付近の非常ベルが鳴ったため、念のため避難するように促す放送を入れるように頼む。私はそのまま階段を駆け上がり、その途中にあった非常ベルを鳴らした。一番致命的な量を仕掛けるのであれば、恐らくは映画館がある階だろう。そこが爆発すれば間違いなく建物の構造上崩壊する。避難を促す放送がはいり、多くの人が避難していく。私も促されたがとりあえずDDCの身分であることを告げて気にしないように言えば彼らはそのまま避難した。
どこにある。到着したそのフロアでそう周りを見渡す。鳴ったスマートフォンに明智警視かと思えば七海である。
「やっとでたな、ナマエ!」
「七海、今忙しいから切りますよ」
今は彼と言い争うことも時間のロスだ。
「今お前何処にいるんだ?」
「渋谷のシティービルの映画館です。明智警視とデート中ですので」
「はぁ!?」
「七海、本当に忙しいんです」
「ナマエちゃん、もしかして今封鎖されようとしてる場所にいるの?」
電話越しに聞こえてきたのは紫乃ちゃんの声だ。
「えぇ、厄介なモノに巻き込まれて。紫乃ちゃんと七海はデートですか?」
「本郷くんもいるわ」
「ふむ……しかしながら、七海と話したように私は今忙しいです。貴方達の会話のために一つしかない電波を使えません」
では、と言いかけた時だ。大きな音がして、爆風に体が煽られる。上から落ちてくる瓦礫からとりあえず頭を守るために頭を覆った。吹き飛ばされて柱に激突した。視界が霞むがなんとか気をとりもつ。ビルが揺れる。落下するか、と思ったのだが揺れは治まった。このビルは壊されていない。ということは、もう一度爆発が起こることが考えられる。怪我は左側を上にしたからか左側の負傷が多い気はするがそちらは痛みを感じないので気にしなくてもいいだろう。飛んでいったスマートフォンを見れば見事に大破していた。これは連絡するのは無理だろう。ため息をひとつおとし、ゴミ箱を漁る。その中にあった箱をあければやはり時限式の爆弾である。爆弾の設計図は、と思ったが明智警視にそのまま渡してしまったことに気づいてもう一度ため息をついた。何か連絡を取れるものを、と探してみれば、店内用の電話があることに気づいた。……。明智警視の電話番号なんぞさっぱりである。110番に電話すればいいのだろうか。しかし、この爆発だ。渋谷周辺の封鎖を知らない一般市民が目撃したと一斉に警察に電話しパンクしてる可能性も悪戯と思われる可能性はある。仕方ない、と息を吐いて唯一知っている電話番号にかけた。「もしもし?」と聞こえた声に、「七海」と声をかければ七海は「ナマエ!?無事か!!」と叫んだ。
「すげぇ音がして電話がきれるし!団先生がお前が巻き込まれたかもしれないとか言って……」
「七海、うるさい。今はそんな話に付き合ってる暇はないんです。明智警視を探してください。今すぐに」
「……なんかあるのか?」
「あと一つ爆弾があります。これが爆破されればこのビルは倒壊します。明智警視が爆弾の設計図を持ってるんです。時間がない」
そう言えば彼は一瞬沈黙すると、「今すぐ探す!」と駆け出す音がした。
「周りの状況は!」
「避難できていない人がいなければ、の可能性を排除すればビルにいるのは私だけですね」
カウンターにもたれかかってそう告げる。爆弾の時計はチクタクと止まることなく時を刻む。
「馬鹿野郎!なんで一緒に逃げてないんだ!」
「私が探していた爆弾が建物の構造上一番危うい部位なんです。ここが爆発したら間違いなくこの建物は倒壊し、周りの建物に被害が及びます。爆破されるより前になんとかしたかったんですが」
私がケースを外しコードの面をみるのと、七海が明智警視を見つけるのはほぼ同時だった。どうやら近くにいたらしい。七海が明智警視に声を掛け、私が中にいることを告げる。すぐに七海の声から明智警視の声に変わった。
「近宮さん!!貴方って人は!」
「説教は後にしてください。明智警視、この場で解体するしか無さそうです」
「……脱出することは?」
その言葉に扉をみる。形が歪んでいる。
「ドアが変形していて無理ですね。13階から飛び降りてキャッチしてくれるなら話は別ですが」
肩をすくめて爆弾をみる。七海が真面目な声で口を開いた。
「解体する自信があるんだな?」
「的確な指示を頂ければの話ですが」
手先は器用な自信もあるし、基本的なことはあの学校で学んでいる。だからといって設計図がなければ無理だろうが。