その血筋は犯罪者へと誘うか(1)


 秘密、とは?
 小説の担当経由で渡された手紙を読む。青薔薇を公開します、来なかったら秘密をばらします、と書かれた言葉に首を傾げた。そもそも青薔薇の公開は2年前の火事で焼失したため振り出しに戻ったと聞いたが。それにこのローゼンクロイツという人物のいう秘密とはどのことだろうか。とりあえず行けば何かわかるだろう。事件が起こる匂いはひどくするが。近くにいた看護師さんを呼び止める。口酸っぱく医師や看護師からしばらく退院はできないと聞いている。が、退院せずともそこに向かう方法はあるのだ。

 電車とバスを乗り継いでいくか、タクシーで向かうかという話になる。車椅子で移動をと医者に念を押された為、利便性からタクシーでそこに向かうことになった。念のため火傷の跡を隠し折り畳みの杖も用意し、あのQクラスに披露していた弱々しい『環ナマエ』になるとする。
 たどり着いた山奥の建物、薔薇のアーチを車椅子でくぐりぬければ屋敷がみえた。数回のノックの後に扉を開く。そこで私はえ、と目をまたたくのであるが。何故なら屋敷のエントランスに集まる人達の中には七海がいた。先回りか、と思ったが、彼もまた驚いているのを見ると先回りではない。しかも、いつもの真っ白な服でなくトレードマークでもある白い帽子もなく、いつぞやにあげた私服なのを見るとDDCの仕事でもなさそうである。とりあえず彼からサッと視線を外しほかの面々をみる。どこかでみたことがある気がする。一部を除いて、であるが。見たことがあると言うことは、何かしらの事件で関わったか業界の人なのだろうか。それ以外は恐らく高校生三人組と、黒い服をきた男性だ。まぁ、その男性も一応は見たことがある顔なのであるが。相互理解ではなく、一方的に。主に指名手配書で。どうどうといる野を考えると、指名手配犯のそっくりさんだろうか。
 私が最後の登場だったのか、その場にいた全員から向いた視線に困ったように膝に載せていた文庫本で口元を隠す。
「ええっと、薔薇十字館はここで間違いないでしょうか?」
 そう小首を傾げれば、高校生の一人が何か騒いで女の子に怒られている。元気なことで。にこり、と手配書でみた男性が笑った。
「えぇ、間違い無いですよ」
「あぁ、良かった。間に合いました。タクシーの運転手さんのおかげですね」
 文庫本をおろし、ほっとするフリをする。どこか緊張感があった雰囲気が幾分か柔らかくなった。眼鏡をかけた初老の男性が近づいてくると、私に尋ねる。
「環様でいらっしゃいますね?」
「はい、環です」
「すいません、まだお見えになっていないとは思っていたのですが、まさか足が悪い方だとは思わず……アーチはお一人では大変だったでしょう?」
「いえ、綺麗な薔薇のアーチでしたので、ゆっくりと堪能させていただきました」
 ニコリと微笑んでおく。さてはて、ホテルでも何でもない館といい、招待状といい、七海や私、指名手配犯など役者がそろってしまったのであれば起こるのは十中八九事件だ。これで何も起こらなければ笑い話になるだろう。ぱっと見で気になるのは指名手配犯を気にかける高校生達と七海なのであるが。七海は私に何も言わなかったわけであるし。
「失礼ですが、貴方は?」
 あぁ、失礼。私はこのようなものですが。
 スーツを着こなした男性は私に名刺を渡す。見るからに会社勤めの人という雰囲気で名刺を渡す仕草も完璧である。名刺をみれば『バイオフェス社長 祭沢一心』とかかれていた。バイオテクノロジーを扱うこの会社は青薔薇の開発に躍起になっていたはずである。私も同じく名刺を取り出す。
「ああ、あのバイオ・フェスの……私は環と申します。薔薇を扱った記事をたまに書かせていただいています」
 嘘ではない。偶に極偶に、あとがきに薔薇の話をいれている時があるからだ。
 他の人も祭沢一心に倣い、同じく名刺をくれる。名前が把握できるのでありがたい。薔薇の写真家の佐久羅京、薔薇のプリザーブドフラワーアーティスト冬野八重姫、薔薇の詩人である月読ジゼル、薔薇で有名な友禅絵師の禅田みるく。もちろん七海もである。まあ、名刺は準備をしていないようであるが。造園技師と咄嗟に名乗ったのか、事前に決めていたのかわからないが彼は変装の名人である。心配しなくとも恐らくボロを出さないだろう。それに、ガーデニング知識――薔薇の世話に関する知識は多少はあるはずだ。
 あとは、高校生とともにいる例の男性が名刺をくれた。フラワーアレンジメントをしている遠山遙治。イニシャルは指名手配犯と同じである。逃走時の偽名だろうか。私も他と同じく彼に名刺を渡す。彼は名刺をみてから、何か気づいたように私を見下ろした。
「環ナマエ?」
「はい、何か?」
「いえ、同じ名前の推理小説作家が浮かんだものなので」
「はい、存じ上げております」
 困り顔で彼を見上げる。これでだいたいが違う人だと思うのだ。周りも推理小説作家ときいて一瞬ギョッとしたが、私の様子にすぐに違う人なのだと思ったのだろう。高校生のうちの一人が推理小説作家? と首を傾げた。
「金田一、知らないのか!?」
「はじめちゃん、知らないの!? ドラマとかよくやってるじゃない!」
「子供向けから大人、ニッチな層まで、色々なジャンルの推理小説を色々な雑誌で発表する推理小説家だ」
「へぇ」
 女子高生の説明に捕捉するようにそう告げた遠山遙治は、恐らく私が書いた小説を読んでいるらしい。友禅絵師の禅団みるくさんが私をみた。
「なんで同じ名前にしたのよ。ややこしいでしょ」
「うっ、そういわれましても……」
 本人ですし、とは言わないが。がっくしとかわいらしく肩を落としておく。また彼彼女らは好きに解釈するだろう。そういえば、高校生の名前を聞いていない。私は高校生を見上げた。
「……えっと、君たちは?」
「彼らは僕の知り合いです。不動高校の金田一一くんと七瀬美雪さん」
「同じく不動高校の真鍋誠です!」
「高校生の方でしたか」
 ふにゃりと笑えば、金田一と名乗った彼がはわわと口を両手で覆い――私の手を掴んだ。その瞬間、となりの七瀬さんに耳を引っ張られて真壁くんに頭を叩かれていたが。これはなかなか面白いトリオである。
「ふふ、元気なのはいいことですねぇ」
 ニコニコしてそういえば、遠山さんが「そうですね」と笑顔を見せた。その姿に、何かを思い出しかけたがそれはイマイチはっきりとしない。そのまま毛利さんが部屋の案内をということで鍵をとりだしたのだが。
「ああ、しかし、環様。お部屋は2階になるのですが」
「すこしくらいなら歩けます。リハビリ途中なので、無理してあまり杖で歩かないようにと言われているから車いすに座ってるだけなんです」
 そう言いつつ、鞄から折り畳みの杖を取り出す。別に歩けるのだが、引きずるフリをした方が良さそうだ。わざとふらつけば、遠山さんに咄嗟に支えられたが。
「……ありがとうございます」
「大丈夫ですか?」
「はい、これくらいなんとも」
 そうニコリと笑っておく。七海が「あーもう」とため息をついて口を開く。
「相変わらずドジな嬢ちゃんだな! 連れて上がってやるから大人しくしとけ」
「あら、知り合いなの?」
「嬢ちゃんの家の庭をいじったんだよ」
「ああ! やっぱり、あの時の方でしたか! 見たことがあると思ったんですよ」
 私の顔を見て驚いていらっしゃったので、お父様の会社関連の方かと思って、警戒して損しました。
 私の言葉に金田一くんはなるほどという風に納得する。まあ、初対面で顔を見て驚くことなんてないだろう。後で口裏を合わせておけばいい。七海は遠山遙治に軽く礼をいって、私を支えるように立ったのだが。


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