その血筋は犯罪者へと誘うか(5)
しばらくすれば、全員が雨に濡れて戻ってきた。私は黒いバラの種類を見極めようと見つめていた。恐らくは染められたものだろうと判別していたのだが。首を傾げた私に、「くそ、閉じ込められた」と祭沢一心がわかりやすく愚痴を告げる。
「閉じ込められた……?」
「唯一の出入り口である薔薇のアーチがおろされてたのよ!」
「えっ、でも、それだけなら薔薇のとげを我慢してしまえば外に出れるのでは……」
「薔薇のとげに毒が塗られていました。少しの傷でも死に至るようなものだとか……」
「ええっ、なんですかそれ、なんで推理小説みたいなことに? これも愉快なローゼンクロイツさんのこれも悪戯じゃないんですか?」
月読ジゼルの発言に、私がデスマスクをチラ見して困惑した振りをする。空気をよまない自信がある。金田一君は私をみて、ほっと息を吐くと私が黒薔薇を持っていることにつっこんだ。
「環さんは何を?」
「この黒薔薇の品種が何か気になってしまって。薔薇の中でもっとも黒味が強いブラック・バカラよりも黒いとなると、この黒薔薇自体が新種の可能性があるので。でも恐らく黒いインクを吸わせた薔薇みたいですね」
そう言って私は黒いバラを光にかざす。うっすらとだが色むらがあるのをみると、まだら模様のものだろうか。まだら模様の薔薇。そしてこの花びらの感じ。恐らく『蓮花』。これもまた、人の名前で有り得るものである。
「環さん?」
「いえ、もったいないな、と。この黒薔薇もきれいにアレンジメントされたかっただろうと思って」
そんなことを言いながら、元の位置――は本物のデスマスクと分かった以上、そこに置けないので別の場所においておいた。
唯一この館へ通じる道ががけ崩れによってふさがれたことにより、警察はここには来られない。天候が犯人に味方したのか、それとも犯人がもとよりそうするように仕組んだのかはわからないが。
もくもくとケーキを食べる金田一くんに、さすが高校生だな、と私は思う。私のケーキも差し出せば、ありがとうございます、と彼はお礼を言った。禅田みるくが「どういう神経してるの」と問いかけた。私は手帳で口元を隠しながら口を開く。
「ふふ、高校生は食べ盛りだもんね」
「はい! そりゃあもう!」
「そういう問題?」
「金田一君を見ているとなんだかほっとしますし、いいじゃないですか」
私の言葉に、金田一君は何かをしようとして七瀬さんにはたかれていた。ふむ、仲がいいらしい。この関係はおそらくひっかきまわさないほうがいい。私も隣の七海からの視線が痛い。七瀬さんに一通り小言を言われた金田一くんは禅田みるくをみた。
「みるくさん、さっき、あの箱の中のデスマスクを見たとき『翔』ってよんでましたよね。知り合いだったんですか?」
そう問いかけた金田一君に、彼女は息を詰めた。その表情を伺うに答えはイエスだ。
「一心さんも、八重姫さんも、環さんも。殺された人ご存じだったんですよね」
なるほど、彼は私をそうみているらしい。驚いて見せたからだろうか。確かに、知りもしない人のデスマスクにあそこまで驚かないのかもしれない。そうなると必然的に犯人の目にもそう映っているはずである。
「さあ、俺はただ雑誌で見ただけだから」
「確か、皇フラワーチェアを経営する皇翔よ」
「はい、おそらくはその人だとおもいます。私も一度、取材させていただきました」
嘘だ。しかし、きっとこれはばれることはない。薔薇に関する雑誌はすくなかれども、花に関する雑誌は多く、いちいち私の名前なんて調べられないだろう。推理小説家の名前があがるわけであるし。
「じゃあ、下の名前が翔だったんだ。みるくさん、呼び捨てるほど親しかったんですね」
「私、あの人とつきあってたわ」
「へっ」
「でも、別れたの。三年前の話よ」
みるくさんの言葉に私は考える。彼女と皇翔の接点は分かった。が、この三人の接点はなんだ。よく見る愛憎劇というよりは恐らくは共犯関係に似たなにかではないだろうか。
「皇さんっていくつだったんですか?」
「今年で40よ。どうしてそんなこと聞くのよ?」
禅田みるくの言葉も理解できる。探偵役のように動く彼ではあるが、その質問は推理から少し外れた位置にあるからだ。しかしながら、恐らくは彼にはその質問をしなければならない意図があった。
――金田一くんは、遠山遙治に連れてこられた。彼は、何か遠山さんと密約をしている?
もしかしたら、遠山遙治はただのスケープゴートではないのかもしれない。それを言えば、七海にも当てはまってしまうのだけれど。