その血筋は犯罪者へと誘うか(7)



 ああ、そういうことか、と私は思う。
 どこで誰が見ているかわからないので杖をつきながらゆっくり移動し、地下の大浴場に向かう。もう誰もいないだろうとふんでいたが、たまたま冬野八重姫と脱衣所で鉢合わせした。服を脱ぐ前にお互い湯船を見てみようという話になり、湯船を見たのだが、浮かんだ薔薇を見て彼女は血相を変えてそのまま外に出ていったのである。間違えて私のタオルを持って外に出ていき、使用済みのタオル入れにいれてしまった彼女は余程動揺しているのだろう。私は仕方なく彼女のおいていったタオルをつかうことにした。他人が使用したタオルが入っているのだから、あまり使いたくない。明日、冬野八重姫に断り、最悪タオルを交換してもらおう。
 誰もいないので火傷を隠す特殊メイクをはずす。そうして、体や頭を洗いゆったりと湯船につかった。シャンプーやボディーソープさえも薔薇の香りだが、一際香るのは本物の薔薇だ。湯船に浮かんだ薔薇を掬う。蓮花と美咲という品種の薔薇だ。まだら模様の蓮花をみて黒薔薇にそめられてのはこれかと理解し――そうして、なるほどな、と思った。犯人の意図がつかめたからだ。薔薇を見ながら私は記憶を手繰り寄せる。美咲と蓮花。蓮花と美咲。蓮花美咲。美咲蓮花。
 ――たしか、火災で亡くなったブリーダーの名前は『美咲』『蓮花』。
 すなわち、この薔薇の名前と同じなのだ。ということは、やはり犯人はターゲットを絞り切っていない。薔薇の名前がついているということぐらいしか。だから、薔薇の名前の付いた人をあつめ、被害者のブリーダーの名前である薔薇を風呂に浮かべ、この薔薇風呂に入れない人をイニシャルのついたタオルで把握するつもりなのである。
「参ったな……」
 私はそうやってまた小さくぼやく。この薔薇に動揺した冬野八重姫は私のタオルだと気づかないまま持っていき、使用済みタオルにいれた。私は冬野八重姫のタオルを使おうとしている。ということは、犯人は私もそのことに関係していると勘違いする。やはり、想像通りの行動をする紙面とは違い、現実では人間の行動は犯人の想定を超えるということだろう。一人の命を救えたといえば聞こえはいいのだが。
 ――逆算すれば、タオルを使った人物の中に犯人がいるということになる。
 湯船から出て、一人きりの脱衣所でもう一度やけどの後を隠す。そうして杖をついて外に出れば、風呂上がりの遠山遙治と鉢合わせした。せっかく使用済みのタオルをあさり、これから起こる事件の被害者予定と容疑者候補を絞ろうと思っていたのに。彼の目の前でやるとただのおかしな人――というか、ただの変態だ。私は仕方なくタオルを使用済みの箱に入れる。
「遠山さんもお風呂ですか?」
「ええ、今さっきいただいたところです……それ、冬野さんのタオルでは?」
 彼はそう使用済みのタオル入れを指さした。イニシャルとバラが表に来ている。私は困った顔をした。
「冬野さんが私と鉢合わせされたのですが、後ではいるからと私のタオルを持って帰ってしまって……取りにも伺えないので。新品でしたし、まあ、いいかと使わせていただきました。遠山さんは?」
「ああ、私は少し、他人が使用しているタオルの中にいれるのが気が引けて」
「潔癖症ですか」
「そういうわけではないのですが、みたいなものですね」
 彼は肩をすくめる。一緒に階段をあがりましょうか、と彼はエスコートしてくれるようだ。これは今日中のタオルの確認は難しい。あきらめるしかない。
「環さんの足のケガは何時からなんですか?」
「ううんと……元凶は私が18歳のころですね」
「驚いた、もっと最近のケガかと」
「わかります? その時以降、感覚があまりないんです。だからよくすっころんで怪我しては入院したりするんですよ。最近も入院してたんです。感覚が難しいので、歩くのも難しくって」
 困った顔で彼を見上げる。嘘と本当を織り交ぜている。彼は私を見下ろした。
「貴女のご両親はさぞかし心配するでしょうね」
「そうですね、いつも私を心配してます。七海さんが心配しているのも、それを見ていたからでしょう」
 嘘だ。しかしばれない自信がある。彼は「そうですか」とまた人の良い笑顔で私を見下ろし、部屋の前で解放してくれた。


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