その血筋は犯罪者へと誘うか(8)


 ――お待たせいたしました。青薔薇の完成披露会を行います。
 翌日の朝五時である。ローゼンクロイツからの手紙が届いた。廊下で七海とあったため、そのまま七海と一緒に杖を突きながら指定された場所に向かった。一階につけば、車いすをもってきた七海にお礼を告げてそれに座る。そうしてから、その円形応接間にむかった。こんな朝早くからどういうこと、と文句を告げた禅田みるくに、毛利帝は言葉を濁す。毛利帝も知らされていなかったのだろうことが伺えた。金田一くんと七海が扉に向かったが、鍵がかかっているようである。真壁誠が考えながら口を開いた。
「なんか変だな」
「ただのお披露目じゃなさそうだ」
「それってどういうことだよ」
 遠山遙治と佐久羅京の会話をよそに、七海は毛利帝に尋ねる。
「この部屋は他の場所から見えないのか?」
「テラスからなら中が見えます。確認してみましょう」
そう言った毛利帝に、金田一君たちが移動していく。私は車椅子でそれをおいかけるとする。まあ、途中で気づいた真壁誠――真壁くんが押してくれるあたり、彼は優しい子である。


 毛利帝の言葉通り、テラスからは円形応接室の内部を見ることができた。一足先に室内を見た周りが悲鳴を上げた。なんだと真壁君と中を見てみれば、祭沢一心の死体がある。十字架の形を描くように青いバラと白いバラが絨毯に敷き詰められ、その十字架に磔にされているような祭沢一心の死体は、まさに絵画だ。そのまま視線を窓に向ける。扉や窓には鍵がかかっているし、見取り図を思い出すにこの部屋の扉は部屋に向かって開く――すなわち、うち開きである。しかし、その扉の前には花弁が乱れることなく敷き詰められている。ということは、これは密室である。
 ――ざっと見るにこれはいかにも私っぽい。
 薔薇嬢シリーズに出てきそうな場面だった。だからこそ、私は悲鳴をあげるのを忘れて、食い入るようにそこを見てしまったのだ。それが失敗だった。
 祭沢さんの遺体の胸元には杭が刺さっている。彼の周りにある白いバラに血がついて、赤黒いバラの花弁の様になっている。それを見て、私はようやく顔をそむけて口を覆った。白いバラが、赤い血によって染まる。まるで、真っ赤な薔薇のように。話に聞いた、母親が、死んだ、あの日の、血塗れた白薔薇のように。
「無理に見るな」
 七海がそう小さくつぶやいて私の両目を覆った。それと同時に、月読さんが詩を詠みあげる。
「青いバラよ、教えておくれ。ぬくもりの泉にまだら模様の蓮花を浮かべ、彼を癒やしながらも、その命を奪った矛盾を」
 大丈夫だと、七海の手をのける。呼吸を整えて、もう一度そこを見る。遠山遙治が中をうかがいながら口を開いた。
「これは、ゴルゴダの丘だ」
「ゴルゴダの丘?」
「――イエスキリストが罪人とともに磔にされた丘ですね」
「ええ、その通りだ」
「毛利さん、あそこに見えるドアはどちらに開きますか?」
「確か、部屋の内側に向かって開きます」
「この部屋は密室になってる」
 金田一君の指摘に、遠山遙治は「さすが金田一くん」と彼をたたえた。金田一くんのことばに、密室? と首を傾げた周りに彼は丁寧に説明してくれるあたり探偵気質だ。
「毛利さん、なんか、ガラスを切るようなものありますか?」
「さがしてきましょう」
 そう駆けて行った毛利帝を見送って、金田一君は遠山さんに言葉をこぼす。
「あんたの得意分野だ」
「確かに」
 なるほど、と今度は私が納得する番だった。遠山遙治は恐らく地獄の傀儡子こと高遠遙一で確定だろう。金田一君はその協力者――ではなく、彼の気質をみるに探偵として彼の事件を解き明かしてきたのかもしれない。そこまでくれば私は彼の苗字も相まって、金田一君がどういう存在か理解できた。彼は間違いなく明智警視がぼやく『高校生』の『素人探偵』くんである。明智警視が厄介な手配犯に目をつけられているとぼやいていたのは高遠遙一のことだろう。
 どうして正反対のコンビがこの事件において手を組んでいるのかはわかりかねるが。恐らく彼らは巻き込まれた側だろう。となれば、高遠洋一は事件の考察からはずしたほうがいい。そうなってくるとこのような現場を作り上げることを得意とし、私の脳裏にちらつくのは惑星側である。
 私は七海の手をそっと握る。いかにも、気分が悪いのだというように。
「――七海さん、」
 これは彼と意見をすり合わせておいたほうがいい。
「大丈夫だ」
 七海はそう言って、密室から私に意識を移した。


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