その血筋は犯罪者へと誘うか(14)
――彼女はあくまでそんなことを考えていなかったのだ。ただ、気分転換したかっただけ。あとから偶々来た三人がバラを盗みにきて――彼女はそれ巻き込まれていた。そして、やってきた美咲蓮花を皇翔が背後から殴り――祭沢一心が火事をおこした。その供述に頭の中にまた母の死が浮かぶ。即死ではなかったようで、月読ジゼルが部屋の前に来た頃にはまだ生きていて。あなたも殺されるという美咲蓮花に月読ジゼルは扉を開けようとした。そうして、私が合流し――彼女は先に他の人に連れていかれた。
そうして、その騒動の後、月読ジゼル――美咲ジゼルがようやくことで母親と対面できた。しかし、それは死体となってしまった彼女で。彼女は母親の言葉と母親が大事そうに抱えていた4輪の薔薇の花、そのうち品種がわかった薔薇の花を元に、皇翔を呼び出したというわけだ。
――あぁ、それはまるで私の心情に似ている。事故だと言い張る魔術団のうちの四人は、きっと、今も何処かで生きている。
その現実がどんなに苦しいから、憎いか。その気持ちを私はいやなほど私は理解できる。
皇翔は事故だった。彼女が皇翔を殺したのは。揉みあった末に、彼は階段からおちて命を落とした。そこで彼女を止めていた何かがなくなってしまった。同じように薔薇の名前を持つ人を探し出せばいい。そして、犯人を割り出して復讐すればいい。そう考えた彼女はそれぞれに手紙をおくった。
しかし、そこで私はおやと首を傾げる。それならば、フェイクをいれる必要はなく、七海を呼ぶ必要がなかったからだ。
「アンタも薔薇マニアか」
そう毛利帝に尋ねた剣持警部に、七海のそばにいた毛利帝が「申し訳ありませんでした」と土下座する。彼はその時のホテルの支配人で、防災システムの故障を分かっていながら放置していたのだという。佐久羅京はスクープ写真を撮るのに夢中で男の子を救えず、それをばらすのが怖くてここにやってきた。
「君は?」
「私は何をバラされるかわからなかったので、一応確かめに」
そう苦笑いして答える。私には秘密は山ほどある。今もこうして偽っているし、推理小説家だとも探偵だとも黙っている。近宮玲子の娘だということもだ。何をどうばらすかわからないし、犯人が何をばらすつもりなのかわからない。その上、事件が起こりそうであったから私はきた。
「……でも、そうですね、私が一番悪い気がします」
私はそう言って目を伏せた。金田一くん達が小さく「えっ?」と困惑したような声を上げる。
「……私はあの日助けていう女の子の言葉をきいて、そこにかけつけ、部屋から一人の女性を助けたのですが、私もひどい火傷を負ってしまって……その後、二人は無事だとばかり。二人のその後に気を配るべきでした」
そう言って手を持っていた手帳を閉じる。金田一くんは少し目を見開いてから、だから謝ったのか、とつぶやいた。私はそれを肯定する。それにしても、私の話題よりもだ。
「しかし、美咲さん、何故高遠遙一や七海を? 話を聞いていると、彼らはカモフラージュのために呼んだのではなさそうですが」
「そうか、七海さんは事故に巻き込まれはしたが、薔薇の名前が入っていない。高遠も薔薇の名前がはいっていない」
剣持警部の言葉に彼女は少し自嘲するような笑みを浮かべて口を開いた。
「決まってるでしょう? 高遠遙一は犯人役としてよ」
小さい頃から腹違いの『きょうだい』がいると彼女は聞いていた。それが高遠遙一だということも。それを聞いて彼女は苦しんだ。凶悪犯である高遠遙一と同じ血が流れていることに。
私は動きを止める。
――待て。七海に異母兄弟がいるなんて聞いたことがない。私は何度か彼の両親と会ったが、彼の両親仲はいいし浮気をしていたなんてことも、どちらかと血が繋がっていないとも聞いたことがない。
――違う。彼女は勘違いしている。しかし、なにか、勘違いするきっかけはあるはずだ。何かそんな出来事が。
彼女は供述を続ける。なんてことがないように、平然と街を歩いている高遠遙一をみて、皇翔を殺めてしまった罪悪感が彼女から消えた。
「そのとき思ったの。兄と教えられた彼に罪をなすりつけてやろうって。私は悪くない。私に流れる血がそうさせたのよ!」
彼女の発言に、私は動きを止めた。流れる血。私に、流れる血。マジシャンとしての母親の――いや、殺人犯となってしまった母親の血。それを引いている私もまた、紙面で人を殺める私は彼女と一緒で、やっぱり。
「違う! 犯罪と血なんて関係ない! それはアンタの勘違いだ!!」
引きずられる思考をバッサリと切ったのは七海だ。私はハッとして彼を見る。
「犯罪者と同じ血が流れていても、どうであるかは選べるんだ! アンタは罪悪感をそれになすりつけただけだ!!」
「貴方が苦しんだことがないからそう言えるのよ!! 貴方も苦しみなさい! 七海光太郎!」
貴方にも高遠遙一と同じ血が流れているんだから!
彼女が七海に告げた言葉に私は動きを止める。違う。恐らくは彼ではない。私は七海をみる。周りも同じように七海を見た。目を見開いて何か言葉を探す七海に、私は違うのだと小さく首を左右に振った。
「待ってください、そんなはずはない。貴方は何か思い違いをしています」
私は諭すように美咲ジゼルそう告げる。彼女は思い違いじゃない! と叫んだ。
「高遠遙一には双子の片割れがいるって聞いていたわ! その人の名前は知らないけれど、陽炎という私の母とその人しか持たない薔薇を持っているって! 私は偶然見たのよ! 七海光太郎がその薔薇の世話をしているのを」
その言葉が、すとんと腑に落ちた。ああなるほどと思ってしまった。七海が悔しそうに顔を歪める。
恐らく、彼は私にこれを聞かせたくなかったのだ。必死に母親が犯罪者ではないと否定する私に、身内に犯罪者がいるのだと。だから、私を先に帰そうとしたし、先程も何か言い返そうとした。
陽炎は私の薔薇だ。母親が大切に育てて、母の死後私に譲られた薔薇だ。色彩を持たず透き通ったガラスのような特殊な薔薇だ。
――高遠遙一の双子の片割れは、私だ。