その血筋は犯罪者へと誘うか(15)
血筋。全く同じ血を引く存在。奇術師と誰かの血を引く。先程七海は血を理由にするなと彼女を叱ったが、頷きたくなってしまった。私はトリガーを引いていないだけで、根本は彼と、きっと近しい。きっと、私は、犯罪者たり得る、人間だ。でも。
「違う! 犯罪者の同じ血が流れているからってなんだ! そんなものほんの一部で、アンタを構成するものは他のもののはずなんだ! アンタはアンタなんだよ!」
「いいえ! 私の血がそうさせた!」
「なら、どうして抗おうとしなかった!? 『血が』なんて理由をつけているが、アンタは結局楽な方に流されただけだ! 動揺して都合のいい方に思考を止めただけだ! 高遠と同じ血が流れてる。それは変えられない事実だ。でも、人のあり方なんて変えられる! 甘ったれるな!」
「七海」
そう彼の名を呼ぶ。彼はそれでも止まることがない。止まらない。彼がここまで犯人に怒るのは珍しい。私は再び、七海、と強い口調で名を呼んだ。彼はようやく彼女から私に視線をうつす。酷い顔だ。私よりも、泣きそうな。彼は教師に正当性を証言する子供のように私をみた。私は首を左右にふる。
「……光太郎、もういいよ」
「お前は黙ってろ、ナマエ! こいつの発言を肯定しちまえば、お前の今までが否定されるんだぞ!」
その言葉に、私は大丈夫だよ、と彼に告げる。七海は味方だ。私を信じて、心配してくれる。それに七海の言う通りなのである。
結局は、きっと、私がどう生きたいかなのだろう。私は犯罪者にはなりたくない。彼や冥王星と同じ生き方をするよりは、七海や団先生と同じ生き方をしたい。母を死に追いやった彼らを許すことなどできない。でも、殺すこともしたくない。そうしてしまえば、同じ存在に私は堕ちてしまうのだ。
私は覚悟を決める。きっと、冥王星は私が血筋に戸惑い、そして堕落するのを望んでいる。
だからこそ。私は七海とは反対に彼女をみて、穏やかに口を開く。
「ジゼル、貴方は勘違いしてる」
「何が!」
「陽炎は私の父が母に託し、母が私に残した薔薇。私のものです。貴方のもう一人の異母兄姉であり、高遠遙一の双子の片割れは私です」
私の言葉に彼女は目を大きく見開く。
「嘘よ」
「……嘘じゃない。隠していたが、俺とナマエは一緒に暮らしてる。ナマエが留守の間、俺があの薔薇の世話をしてるんだ」
七海が首を左右にふる。ジゼルは私をきっと睨みつけた。
「じゃあ、貴方も苦しみなさいよ!! 同じ血が流れていることに!! 何幸せそうに生きているのよ!! どうして私だけなの!!」
私は困った顔をしている。彼女は、何も知らないだけだ。私の母親がどうなったかを、苦しんでいたことを、何も。七海がまた何かいおうとしたが、それを遮って声が聞こえた。
「同じ血が流れているだって?」
芝居がかったような言い方である。建物の方からゆったりと歩いてきたのは高遠遙一である。
「僕の犯罪計画のエピローグはもっと美しく、鮮やかだ。こんな出来の悪い計画を実行する存在に、兄とは呼ばれたくない」
彼はそう言って私の近くで足を止める。その視線に私は映らない。彼はただジゼルを見た。
「どうするつもり、兄さん。私を殺す?」
「当然だ」
平然と告げた高遠遙一に、彼女は諦めたように笑った私は懐に手を入れる。七海は彼から離れられない。私がどうにかするしかない。
「――手紙で書いた約束通り、見せてあげるわ。妹が死ぬところをね」
そう言って彼女は薔薇の花束の中からもう一輪黒いバラをとりだすのと、私がどこからともかく薔薇の花を取り出すのと、高遠遙一がナイフを取り出すのは同時だった。そして、それらを投げるのも。
先に私が投げた薔薇が彼女の手を掠める。高遠遙一が投げたナイフが彼女の手からこぼれ落ちた薔薇を奪い去り、薔薇ごと近くにあるアーチの柵に固定された。ジゼルが薔薇を取りに向かうのをみて、私は立ち上がった。そうして彼女に駆け寄って、彼女がナイフを喉元に突き立てようとするのをとめる。ぽたりと赤がこぼれ落ちる。痛みは相変わらずない。私の手を傷つけたナイフなど気にせず。彼女は目を見開いて私を見た。
「やめなさい、ジゼル。いい子ですから、ね?」
諭すように彼女に告げる。ゆっくりと反対の手で、彼女の手からナイフを奪う。そして、驚きかたまる彼女を私は見つめた。
「……やはり、この事件の落ち度は私にあります。私があの親子のその後を気にしていたら、もっとはやくに貴方の力になれたし、貴方はこんなことをしなくてすんだ」
苦しむ彼女を別の方法で助けることができたかもしれない。同じような、立場として。血の繋がった家族として。彼女は先にもう一人に出会ってしまった。
「ごめんね、ジゼル。もっと早くにあっていればよかった。今更、謝って済む話ではないけれど」
「ぅ、ぁ」
彼女は目になみだをためる。
「ジゼルさん、貴方はそんなことを言うけど、高遠はたしかにアンタに会いに来たんだよ。顔も知らない妹に」
金田一くんがそう言って優しい声をかける。彼女は金田一くんと高遠遙一の方を見てポロポロと涙を流した。私が背中をさすれば、彼女は涙でぬれた視界の端に何かをとらえたらしい。しまった、と思った。豹変した彼女はもう一度ナイフを奪うと、私に向ける。ぐさり、と私の腹部に刺さったようなナイフを見つめる。何かを見たような突然の静止、からの我を忘れたようなこの動きだ。高遠遙一は目を見開いて、ナマエちゃん、と私の名を呼んだ。金田一君や剣持警部が私の名前をよんで駆け寄ってくる。ひらりと薔薇が舞いおちた。虚な目をした彼女と視線を合わせて、口を開く。
「オルフェウスの竪琴を奏でよ」
そう彼女は意識を失い倒れ込む。私はそっと彼女を抱きとめた。