されど奇術師は探偵と生きるか(1)



 ――ナマエちゃん。
 少年が私をみて手を振る。イギリスに滞在するときに、あそぶ同い年の少年。日系であろう少年は、同年代と過ごすことがすくない私にいる、少ないマジック仲間だった。
「つぎは何時イギリスに戻ってくるの?」
 そう尋ねた少年に、私は「わかんないや」と困った顔をする。確かちょうどヨーロッパまわりの興行がおわり、アメリカへ向かうことになっていた時だ。私は指を折り数える。
「つぎはアメリカでー、つぎはアジアでー、アラブ方面も行くって言ってたし、その次かなぁ」
「じゃあ、ずっと先だね」
「うん。でも、いつかはね、戻ってくるよ」
 母親や周りから聞いた話ではあるが、昔からそういうふうに母親は興行を続けていたそうだ。本当? と首を傾げた彼に、私は頷く。
「魔術団がここにきたら、休演日にここにいて。絶対に会いにくるから」
 そう言って薬指をだす。どこか落ち込んでいたような彼は嬉しそうに頷いて、同じように薬指をさしだす。
「うん、約束だよ、ナマエちゃん」
「うん、約束する、遙一くん」
 そのあと母親が迎えに来て、二人で母親にマジックをならって手を振ってわかれて――そうして、帰りに例の言葉を言われたのである。一緒にいさせてあげられなくてごめんね、と。
 数年後、母親の率いる魔術団はイギリス興行に向かったが、私は独り立ちしており――タイミングを合わせて会いに行ったけれど、そこに同年代の彼はいなかった。私はそれにすこしだけがっかりした。まあ、所詮幼いころの約束などそんなものなのだろう。だから、いつの間にかそんな思い出はすっかり色あせてしまっていたのだ。それがあの地獄の傀儡子だとは思わなかったし、双子の片割れだったとは思いもしなかったのであるが。
 ぱちり、と目を開ける。視界に映った点滴の袋に「またか」と複雑な心境になる。
「起きたか?」
「おはよう」
「何回目だろうな」
「二回目かな?」
「三回目だよ、馬鹿野郎」
 七海はそう言って私の頭を手帳で叩く。痛い、といえば彼はため息をついて私の手元に手帳をおいた。団先生に報告してくる、と七海は病室を出ていく。それを見送って、私は手元におかれた手帳を手に取った。同じタイプ、同じ色の三冊の手帳。誰もが見落としていたそれに私はそっと目を伏せた。

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