奇術師は指揮棒を誰に託すか(1)

 朝食を食べながら私宛の手紙を確認する。多くはダイレクトメールであるが、たまにまだあの場所に私が住んでいると思った人物達が手紙を寄越すのだ。メールやメッセージアプリなどが増えたというのに、なんともまぁ古風なのだろう。まぁ、浪漫はあるかもしれないが。今回も一通、手紙が届いていた。差出人をみれば有名な推理小説家、山之内恒星からである。露西亜人形を題材にしたその作品で大きな評価を受けた彼であるが、私との相性は酷く悪いと言えた。表向きは彼は私を評価しているが恐らく内心はそうではない。授賞式でも姿を現さない私を酷くいうのは出席しない私が悪いのでなんとも言えない。が、それにしても嫌われているし、私はどうも彼が偽善者ぶっているようで好きではない。しかしながら、編集者曰く嫉妬のようなものが混じっているのかもしれないとのことだ。嫉妬されても困る。
 七海が向かいの席に座って口を開く。
「誰からの手紙だ?」
「山之内恒星」
「あぁ、あのミステリ作家の……って、本人は亡くなっただろ」
「そうなの?」
「あー、お前が海外に行ってる間か」
「詳しいなぁ」
「ニュースで速報が入ってたんだ」
 そう言って彼は頭をかく。
「というか、環ナマエと山之内恒星って仲悪かっただろ」
「やだなぁ、七海。環ナマエと山之内恒星は表向きは仲がいいよ。裏で山之内恒星が一方的に環ナマエを嫌っているし、私が山之内恒星を嫌ってるだけだから」
「環ナマエはお前のペンネームだろ」
「世間は環ナマエが私だって知らないからね」
 そう言って切り分けられた卵焼きを食べる。うむ、甘めのそれは私好みだ。食べながら手紙を開く。ながら食べはいけません、と叱った七海に君だって新聞を読んでいるからブーメランだよと笑い返した。
 さて、手紙の内容はと言えば遺産相続の案内である。謎解きをしたら彼の遺産が手に入るらしい。はっきり言っていらないのでスルーでいいだろう。七海は気になったのか新聞を置いて私をみた。
「なんて?」
「謎を解いたら先着で遺産をプレゼントだってさ。特にいらない」
 手紙を端に置けば七海がそれを拾った。彼はそれを眺めると、私を見る。
「これ、Qクラスに行かせてみていいか?」
「いいけど、団先生の許可はちゃんと貰ってね。怪我されても困るし」
「それはもちろん。まぁ、あの推理小説家環ナマエからの依頼だって言えば食いつくだろ。別に遺産が入っても入らなくてもいいんだろ?」
「まぁね」
 私はそこで動きを止める。あの陰険ジジイのことである。何か企んでいないはずがない。あの探偵学園にとって大事な彼らに何かあったら困る。
「やっぱり私も行こうかな」
「は?なんだ、どうした?」
「あの陰険ジジイが何も考えてないわけがないんだなぁ」
「お前本当に嫌いだな」
「嫌ってくる相手を好けるほどできた大人ではないので」
 もう一つ卵焼きをつまむ。七海はため息をついて口元に笑みを浮かべた。俺はどうなんだと言いたげな顔に腹がたつので卵焼きを七海の口に突っ込んだけれど。

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