奇術師は指揮棒を誰に託すか(3)

 先生、今日はこんな事件がありました。
 そんな少年の報告から始まるミステリー小説はどうだろうか。推理小説家ではない作家のもとに訪れる、その近所に住む少年少女。彼らは知らない間に事件に巻き込まれ、解決する。現実は小説より奇なりと、いつも小説家は思うかもしれないし、その小説家が実は1番の悪党で彼らに忠告する人物が味方かもしれない。もう少しだけ設定を詰めなければいけないが、大筋はそれで構わないだろう。

 湖の真ん中に立つその館は建築様式から露西亜館と呼ばれる。恐らくは露西亜人が建設に関わっていたのだろう。湖を船で移動して仕舞えばそこは孤島とも言えるし、確か今後の天気は荒れると聞いた。これは何か起きそうである。そっと息を吐き、執事の人に誘導されるがままに屋敷の内部に入った。その大広間には七人の人物がいる。彼らは私をちらりとみると、一人を除いて首を傾げた。私は四人を除いて顔を知っているが、友人にも似た関係の女性がいたのでそちらを見る。
「幽月さんも招待されていたのですか」
「あなたもね。せっかく貴女に謎解きのパートナーになってもらおうかと思っていたのに、連絡が取れないんだもの」
「ごめんなさい、海外に出向いていたもので……」
「貴女が参加したなら貴女の一人勝ちね」
 そう告げた女性――幽月さんに、周りがどういうことだ、というように彼女をみる。彼女はそれを見てクスクスと笑って口を開く。
「そろそろメディアに顔を出した方がよろしくなくって?環ナマエ先生」
 またこの人はこういう意地悪をする。私の答えはメディアが嫌いだからという返答になるのだが、周りはそうではない。
「環ナマエだって!?この人が!?」
「嘘をつけ!こんな小娘が環ナマエのはずがないだろう!」
 そう吠えた評論家の言葉に内心で肩をすくめておくが、私は口元を手帳で隠し困ったような表情をうかべておいた。
「どうぞお好きに環ナマエを想像してください。彼もしくは彼女は想像する人によって人となりは変わるでしょうから」
「環ナマエが本物なら貴女の一人勝ちじゃない!」
 吠えるように告げたのは作家の梅園さんだろう。私はワザと「ひぇっ」だなんて声を上げて肩を揺らす。私の演技が面白いらしい幽月さんはクスクスと笑った。
「あら、彼女、遺産に興味ないんじゃないかしら」
「ならなんでここにきたんだ!」
「ネタを探しに……」
「ネタだと!?」
「だから、私は謎を解きません……その為の彼らです」
 そう言って彼ら――Qクラスの面々を指差す。
「私の近所に住む子達なんですけど、なんだか少年探偵団っぽくって。それで話を一つ書けないかと思ったんです」
「貴女が謎を解くわけじゃないのね」
「はい、それはもちろん。まぁ、仮に彼らが先に謎を解いたら解いたで遺産の相続については皆さんとお話しできたらなって思います」
 ホワホワ笑っておく。幽月さんはまたクスクス笑った。
「仕事の話、待ってるわ」
「もちろん」
「環先生の知り合いですか?」
 Qクラスの少年――キュウくんが首をかしげる。
「はい、彼女は画家の幽月さんです。私の作品の挿絵もそうですが、主に山之内先生の作品の挿絵を担当されています」
「へぇ」
「ちなみにあの髪の短い女性は作家の梅園先生、あのお酒を飲んでいる方は評論家の神明先生でしょうか。後の方は失礼ですが、存じ上げません」
 首を左右に振れば、あぁ、失礼しました、と男性がやってくると名刺を差し出した。
「文芸冗談の副編集長、宝田光二と申します。山之内先生の担当編集を」
 なるほど、と納得しつつ私も私でポケットから名刺ケースを取り出して渡す。もちろん環ナマエ名義のものだ。
「作家の環ナマエです」
「はい、環先生の作品は多数存じ上げております。次の作品もとてもたのしみにしていたところでして」
「次の作品は書き上げてしまったので、今日の話は次の次の話ですが、まぁ、よろしければ掲載でもよろしくお願いします」
「貴女、編集さんに怒られるわよ。あちこちから小説発表してるじゃない」
「あれは……まぁ……むしゃくしゃして書いた原稿を……無意識で適当な出版社に送った結果というか……最近は編集さんが送る前に取りにきたり締め切り指定してくるのであんまりないですが」
「相変わらず書き上げた作品には興味がないのね」
「それは肯定します。しかしながら、貴女達はどのようなご関係で?」
 こてん、と純情を装って首を傾げる。幽月さんがまたクスクス笑って口を開く。
「私たちは先生の家に集まってたまに演奏していたのよ」
「セクステットですか?」
「いえ、クインテットです」
 そう答えたのは一番若い青年である。彼は私の惚けたような視線に気づいてまた口を開く。
「犬飼です。山之内先生の隣の家に住んでいて、先生にはご好意を」
「ふーむ、山之内先生は近しい人を集めたわけなんですね」
 さて、これならば余計に私が呼ばれたわけがわからない。本来なら独り身であった彼の遺産は、あの五人やメイド、執事なんかに振り分けるまたは挑戦させるものだろう。Qクラスもそれに引っかかったのだろう。
「環先生は山之内先生と親しかったんですか?」
「そりゃあ、日本ミステリー界で有数の作家だから関係くらい……」
「ははは、だと思うでしょう?私、山之内先生とは会ったことがなくて」
「でも、山之内先生は評価されてましたよね」
「表では、ね。死人に口なし。実際にはどう思ってたかなんて私にはわかりませんし、呼ばれた意味もわかりません。ちなみに私はあの人は嫌いでした」
 神明さんがこちらを見る。何か興味を引いたらしい。幽月さんは驚いたように私を見る。
「あら、そうだったの?」
「はい、あの人はトリックを捌き切れていませんから」
 私の発言に首を傾げた周りに、まぁそれ以上は言うまいと手帳でまた口を隠す。梅園さんがジロリとこちらを見る。
「嫌いならなんで来たのよ」
「先ほども言いましたが、ネタになりそうだったので!」
 そうニコニコしておく。幽月さんはまたクスクスと笑い、周りは呆れたような目でこちらを見る。そんな中、弁護士の有頭さんが咳払いをし生前残したという映像を見せられる。画面に現れた痩せ細った男――山之内恒星は暗号文と五体のロシア人形を指し示す。まるで彼の出世作のような展開だ。それに五日間は外に出てはいけないらしい。
「参加する方は楽器をお取りください」
 そう促した有頭さんに、他の人は楽器を取る。それでは残った指揮棒が私というところだろうか。とりあえず、参加しなければいけない流れなので指揮棒を手に取り、Qクラスに頑張ってねと声をかけておく。暗号文も全て彼らに託しておいた。
 次の映像は少し時間を置いてかららしく、先に部屋に案内されたのだけれど。流石に女の子を男の子の部屋に一人置けないため紅一点のメグちゃんとは同室であるが。

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