SQUELCH!!


白い魔女と褒美(2)



「主、誉をとったら褒美をくれると聞いた」
 そう告げた大包平さんに首をかしげる。誉とは確か出陣した時に一番の成績を収めた人に与えられる称号みたいなものだったはずである。こんのすけ曰くMVPだとか。私としては全員がMVPなのだけども。というか、そもそも誉というか出陣のご褒美だったような。彼の後ろで鶯丸さんがお茶を飲みながら笑っている。
「誉というか、短刀達への出陣のご褒美はあげました」
「なら俺にくれても道理は違いまい」
 彼は腰に手を当ててそう告げる。確かにそれは間違いない。彼や御手杵さん、同田貫さんなんかは一番出陣関連を引っ張っていってくれている人達なのである。なので私は頷いた。
「そうですね、みんな頑張ってくれていますが、出陣に関しては貴方達が一番頑張ってくれています。そんな大それたことはできませんが、何をあげましょうか?」
 小首を傾げて彼に尋ねる。彼は「短刀達が食べていたもの」と告げた。「あれを食べたい」と続いた言葉に、私は目を瞬く。思っていたより可愛らしいお願いだ。
「それなら誉とは別でも……」
「……なら、鶯丸にもやってくれ」
 ちらりと後ろを見ながら告げた彼に優しい人だなぁ、と私は思う。わかりました、と返事をして私は手を宙に伸ばすと指揮をするように指を振る。キラキラとしたものが宙に舞い、それが集まっていくとシーソルトアイスが現れた。目撃していた数人が動きを止める。
「はい、どうぞ」
 出来上がったシーソルトアイスを二つ、大包平さんに渡した。
「なんだ、今のは。傷を治すといい、主の力はどうなっている?」
「さぁ……?」
 この世界の理論ではないため私は首をかしげる。鶯丸さんがいつのまにかやってきて大包平さんの手からアイスを掠め取った。そうしてひとしきりアイスを眺めると二人して口にする。どうやらお気に召したらしい。温い茶を入れよう、と縁側に向かった鶯丸さんに私と大包平さんはつづく。

「まるで主の使う術は外国の本に出てくる魔法だな」
 食べ終わった二人とお茶を飲んでいる時だ。鶯丸さんがこぼした言葉に私は苦笑いをする。あぁそうか、魔法という概念はあるんだった。その全ては御伽話になってしまうけれど。
「その魔法だと言ったら、どうします?」
「魔法?そんなものが実在するのか」
 大包平さんの言葉に、私は「よくわかりませんが」と前置きをして、そのまま氷の魔法をつかう。冷気と共に蒼い光が集まり、百合の花を作り上げる。解けない氷の花。緋色の彼にはあまり似合わないかもしれないが。
「これを魔法という人はいるでしょうね」
 それを手に取って彼に手渡す。冷たい、と言葉をこぼした彼に「誉のご褒美はこれで我慢しておいてください」と告げる。
「氷か?」
「ええ」
「なら溶けてしまうではないか」
「いいえ、割れることはあれど、溶けることはありません。手で握っていても溶けないでしょう?」
 私の言葉に彼は掌はをみる。
「俺たちの部屋にはこの花に花瓶がない」
「コップでもいいのでは?」
「そんなもの、この花に見合わないぞ。歌仙に相談するか」
 そう立ち上がった大包平さんは花を持ったまま廊下を進む。それを見送れば、鶯丸さんがのほほんとした口調で口を開いた。
「ナマエが来てから大包平の話の話題が変わった」
「話題?」
「大包平は前の主の時からことあるごとに出陣していてな。今日は誰が折れた、今日は誰を守れなかった、そんなことばかり口にしていた」
 彼の言葉に私は口を閉ざす。予想はしていたけれど、やはり最初の状況は前の主によるものだったのかと。
「ナマエが気にすることはない。すぎたことだ。でも、俺はやれどこぞの景色が綺麗だったとか、遠征先で食べた弁当の話、道端に咲く花の話に変わったのが嬉しく思う」
 鶯丸さんはそう言って私をみて、柔らかく笑った。
「主のおかげだな」
「そんなこと」
「謙遜はよくない。事実だからな。刀剣の中でははじめからナマエが主であればというものもいる。でも、俺はそうは思わない」
 彼はそう言ってお茶を飲む。
「前の主は悪い人ではなかった?」
「さぁ、俺はわからない。あの主は良くも悪くも人間だったな。俺たちを追い詰めたのは、主があれもこれもと欲に眩んだ結果なのか、焦燥、それとも恐怖に駆られたからなのか」
 鶯丸さんは遠くを見つめる。私はその横顔をみた。少しの悲しさを滲ませた彼はまた口を開いた。
「ただ言えるのはあの主が俺たちを物と扱ったように、俺たちもまた彼を唯一の持ち主だと崇めた。今のように人として隣に並ぶなんてことは決してなかった。俺たちを人、物、 どちらで接するのが正しいのか、俺は判断出来かねる」
「それは、私もわかりません。でも、多くは前者だというでしょう」
「不思議だな。俺たちの本質は物だ。でも、人の姿をとっているだけの」
 そう告げた彼に私も口を開く。
「でも、貴方達には心がある。美しさを讃える、兄弟を想う、誰かを慈しむ。悲しむ、怒る、そんな心がきちんとあります。心は他者と接する中で育まれるものです。それは人間含む動植物にも、無機物にも宿ると私はききました。私は貴方達に心がある限り、今のように接するでしょう」
「心、か」
 呟くように告げた彼は、厄介なものだと思っていたが、と目を伏せた。
「花を綺麗だと思わないのも、茶をうまいと感じないのも嫌だな」
 目を伏せた彼に私はお茶を見つめる。戸棚の中にある一回り小さな湯飲み。その持ち主を私は知らない。でも、鶯丸さんが出陣を拒む理由はそこにあるとは薬研くんから聞いた話である。視線を感じてそちらを見れば鶯丸さんが口元に笑みを浮かべていた。
「俺もたまには出陣するか。そろそろ大包平も煩くなってきたところだしな」
「鶯丸!今の話は本当か!」
 後ろから聞こえてきた声に振り返る。綺麗な花瓶を抱えた大包平さんがのしのしと歩いてきた。
「見合う花瓶が見つかったのか」
「あぁ。どうだ?」
「いいんじゃないか?」
「だろう。で、今の話は本当か」
「今の話?」
「お前が出陣するという話だ」
「あぁ、その話か。おいおいな」
 そう告げた鶯丸さんに、大包平さんは「お前はまた!」と声を上げる。おいおいとはいつだ、おいおいはおいおいだ、だからそれがいつかときいてるんだ。そんな問答が面白くてクスクス笑えば二人は私を見下ろした。
「ごめんなさい、本当に仲がいいんだなって」
 私の言葉に二人は「当たり前だ」と告げたのだけど。



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