SQUELCH!!


白い魔女とお隣さん


 本丸にもお隣さんがあるらしい。と、いうのも何かと物知りな陸奥守さんが教えてくれたことだ。演練で会うのは同じ場所に住む人が多く、またどこもお隣の本丸があるとのことだ。陸奥守さんは本丸経営について詳しく、長谷部さんと一緒に納得したりすることが多い。それをみていた加州さんが「陸奥守、初期刀だったでしょ」と告げたのは厨房でご飯を作っているときである。
「ばれちゃあ仕方ないぜよ。おん、そうじゃ」
「初期刀?」
「主にはいなかったけど、本来は一人に一振り打刀が一緒に配属されるの。まぁ、打刀の中でも比較的バランスが取れて穏やかな刀が初期刀になるんだけどね。初期刀は主のサポートをするのも役目だから、本丸経営について詳しいって聞いたことがあるよ」
「へぇ……じゃあ私の初期刀は皆さんですね」
 そう笑いながら言えば、加州さんが「主のそういうとこ〜!」と私の肩に頭をグリグリとなすりつける。くすぐったい。陸奥守さんが目を瞬いて、「初期刀がおらんのかえ?」と首を傾げた。
「もうそんなの前の主の時に折れたよ。山姥切みたいだったけど」
「ん……んっ!?」
「あれ、聞いてないのかい?この本丸、主がナマエちゃんに代わって穏やかになっただけだよ」
 そう言った光忠さんに私はお鍋に苺を入れて火にかける。陸奥守さんがそういうことやったかぁと頭を抱えた。
「珍しいと思ったんじゃ。初任者の審神者のとこに、大包平がおる時点で」
「?」
「あぁ、主は気にしてないと思うけど、大包平さんは珍しい刀だから。本丸にいない審神者さんも多いんじゃないかな」
「あぁ、なるほど、だから大包平さんと出かけると他の人と比べて視線が痛い時があるのか」
 苺を木べらでかき混ぜながら告げる。砂糖が足りない気がするので、魔法を使って砂糖を取り寄せ鍋に入れる。
「主」
「もう少し甘いほうがいいかなって」
「何作ってんのかなって思ったら主、甘いもの作ってたの?」
「うん。苺ジャムを」
「苺じゃむ?美味しそうだね……って違う違う、主、それ僕らは慣れたものだけど、陸奥守くんには違うと思うよ」
 そう告げた光忠さんは宙に浮いた砂糖の箱をと匙を指差した。私はそれをみてから陸奥守さんをみる。驚いているというか、心なしか目をキラキラさせているような。なるほど。私はそっと箱と匙を下ろして手で抱えた。
「主、今更遅いよ」
「大倶利伽羅が言うとったんはこう言うことかえ!」
 目をキラキラとさせて陸奥守さんは口を開く。
「出陣したあと、おんしがぱぁぁぁて透明な花を作り上げる言うてたんじゃ!わしも五虎退もわからんかったき、見間違いじゃ言うとったんじゃ」
「あぁ、伽羅ちゃんが拗ねてたのはだからか」
「悪いことしたぜよ」
「ちなみに花を集めるとこう言うブローチになるよ」
 そう言って光忠さんは黄色いブローチを、加州さんが青いブローチをみせた。
「大包平や御手杵がつけとるのとはまた違う……?」
「その二人と同田貫は鬼だから。誉の数が異次元だから、ブローチの形も違うの」
「誉の数が異次元」
「まぁ、彼ら、一緒に出陣すると片っ端から誉もらっていくからね」
「ほぅ……」
「なんの話だ」
 キッチンの窓から顔を出したのは大包平さんである。手合わせ当番であるが、終わったのだろう。
「大包平さんが強いですね、と言うお話です」
「あぁ、そうだな。俺は強い。主、何を作っている?かなり赤いが」
「苺ジャムです。苺は生のままだと日持ちしないので」
「苺?」
「甘いのです」
「なら稽古後の短刀達にやってくれ」
 なんやかんやで優しいなぁ、と思うのである。私は苺ジャムの作りかけを魔法を使って小さなアイスにする。それをみて少し目を輝かせる彼は可愛らしい。そうして彼に渡し、ついでに光忠さんや加州さん、陸奥守さんに渡しておいた。しばらくすれば短刀達がかけてくるだろう。
「いやぁ、噂もあてになるもんじゃ」
「噂?」
「次に刀を貰いにくるのは魔女っちゅう噂が流れとったんぜよ。馬鹿らしい言うちょったんじゃが。でも、なんちゅうか、ナマエは、魔女というより妖精さんじゃな」
 その発言に私は目を瞬いたし、光忠さんと加州さんは吹き出した。妖精さん、とはいい例えなのだろうか。まぁ魔女はおどろおどろしいイメージがあるもんなぁ、と思いつつ「人間ですよ」と答えたけれど。


 さて、お隣さんはきちんと存在していたらしい。演練の相手のコードが一番違いだったからだ。それをみて五虎退くんが、お隣さんですね、と告げた。
「おっ、そこにいる真白のちっこいやつは、この前の審神者じゃないか」
 よっと手をあげた真白の彼に、隣にいた男性――恐らくは審神者――が「知り合いか?」と尋ねた。
「あぁ、この前光忠と衝突事故をおこしていた」
 衝突事故。ただぶつかっただけなのだけれど。話を聞いた審神者さんは心配そうに私をみる。
「それは……大丈夫だったのか?」
「えっと、はい、こちらは怪我もなく」
 そう一応断りを入れれば、彼は私の身なりを見た。
「それにしても白いな……あの髪色、鶴丸の色移りか?」
「いや、どうやら地毛らしいぞ。あと、主、それは向こうの大包平の地雷だ」
 その言葉に私と彼は大包平さんをみる。大包平さんは腕を組んで口元に笑みを浮かべているが目がつり上がっている。うむ、怒っている。ヒエっと声をあげた彼に、別の刀が笑った。向こうの青江さんが口を開く。
「おや、主、近いようだよ」
「何が」
「番号がお隣さんだ」
「隣?右隣はあのじじいだろ?」
「その番号は僕らの前だろう?彼女は次だから左隣だね」
「左隣は黒い……まさか、審神者の入れ替えか?」
「石切丸が左隣から障気がなくなったって言っていたけど、多分そういうことだね」
 そう言った青江さんはそう言って私をみる。
「お隣に挨拶もなしなんてひどいじゃないか」
「えっ、あ、すいません」
「仕方ないだろう。俺たちも主も隣の存在を知ったのは昨日の今日だ」
 長谷部さんの言葉に私も苦笑いして頷く。彼らは顔を見合わせた。浦島くんが暇そうに彼らをみる。
「というか、演習しなくていいの?」
 その一言に、周りは演習に意識を向けた。

 演練であまり傷だらけにならない大包平さんが傷だらけになったあたり、彼らは強いのだろう。はらはらしていれば、大包平さんが高笑いした瞬間、刀に光がまとわりついた。そして振りかざした斬撃は光の斬撃となって相手を弾き飛ばす。その一撃が最後だったが、恐らく私も相手もそれどころじゃない。五虎退くんもびっくりしている、というか全員がびっくりしている。私は大包平さんに近寄って傷が治りだした彼を見上げた。
「大包平さん、今のは……」
「俺もよくわからないが、力が昂ったのはわかった」
 と、いうことは彼は無意識に魔法をつかったのだろう。先程の効果などをみるに兄弟子のホーンストライクに近いものの気がする。恐らくであるが、私の霊力――魔力が彼に馴染み、また勲章のブローチを身につけていたから起こったのだろうと推測できる。防具として加護を与えたのに攻撃に転じられるとは思いもしなかったけれど。フゥム、と考えていれば戦場だった視界が切り替わり演練場に変わる。演練が終わりだというアナウンスが聞こえた。
「とりあえず帰りましょう。少し考えをまとめさせてください」
 私の言葉に刀達が返事をすると両手をつないだ。迷子防止だそうだ。……もうあんなことにはならないけどなぁ。




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