白い本丸の刀剣と魔法
「恐らくですが、私の霊力が大包平さんに馴染んだこととそのブローチが原因だと思われます」
「これがか?」
「簡単にいうと、貴方は魔法を使いました」
私の発言に彼はキョトンとした表情をみせた。というより話を聞いていた周りもまたキョトンとしている。
「魔法って、主がいつも傷を治してくれたり物を浮かせたり、はたまたアイス作る時にやってることと同じようなこと?」
「うーん、物を浮かせるのとアイスはまた違う気がしますが、傷を治すのは似た意味かなぁ」
生活魔法と戦闘魔法の差というか。フェアリーゴットマザーの魔法と兄弟子達の魔法の差という感じであるが、これは感覚的な物だから説明には向かないだろう。歌仙さんは眉尻を下げて私をみる。
「主、もう少し噛み砕いてくれないかい?」
「んん……結論を非常に簡単にいうと私の霊力が馴染んだらブローチつけてる人はみんな何かしら大包平さんみたいなもの使えるようになると思います」
「というか、そもそも大包平は何やったんだ?」
「すごかったんだよ、大包平さんが真剣必殺したら光の斬撃がバーって!相手の鶴丸さん弾いちゃった!」
「光の斬撃?バーっ?」
「やって見せろよ、大包平」
「そうしたいのは山々だが、やり方がわからん。偶々できた、が正しい」
大包平さんはそう言って腕を組んだ。見てみないとわからないよなぁ、と思いながら「似たようなことは私も少しできるのですが」と言えば周りは私をみた。
「主、できるのか?」
「えぇ、兄弟子が――」
私の声を遮るように呼び鈴のような音がする。首を傾げながら音がした方を見れば恐らく出陣ゲートではなく門のほうである。
「この音は門の呼び鈴じゃな」
「お客さん、でしょうか」
もう一度鳴った音に私はとりあえず玄関の方へ向かう。周りの刀剣も同じように移動し、同田貫さん達が私の一歩前にたった。
「あんたは下がってな」
その言葉に、彼は片手を刀に置いたまま勢いよく扉をあけた。
「うおっ!?殺気が膨らんでると思えば!よせよせ俺は敵じゃない。お隣さんだ」
その声に門の方を見る。お隣さんの鶴丸国永だ、と、先程よりはラフな格好をした白い彼が両手をあげている。その後ろには今日相手をしてもらった審神者とこの本丸にはいない布を被った青年がいる。
「お隣の審神者さん」
「主の知り合い?」
「今日の演練相手の方です。とてもお強い方でした」
そう言えば、へぇ、と同田貫さんは彼をみた。
「で、他所の審神者がなんのようだ」
「さっきの、大包平のやつだ!」
白い彼――鶴丸さんが入ってきて私の手を握る。
「最後の大包平の一撃!あれは驚きだった!どうやったんだ!?俺もできるようになりたいんだが!」
「おい、鶴丸国永」
「あぁ、悪い悪い。つい興奮しちまった」
パッと両手を離した彼に私は苦笑いする。やっぱり異質であるらしい。恐らくは審神者さんは刀剣達に私が何かをしていないか心配して来たのだろう。
「中でお茶を飲みながらお話でも構いませんか?」
「主!?」
「中に入れてくれるのか!?」
「貴方達が悪い人でないとわかるのでどうぞ」
そう促せば周りの刀剣だけでなく審神者さんも頭を抱えた。
「お前……大丈夫か?いやほんとに。俺たち初対面だぞ」
「でも、心配してくれるということは悪い人ではないですし、本当に悪い人なら中に入れないので大丈夫ですよ」
「……結界か?」
結界、とは。そういう魔法をかけているのだけども。鶴丸さんがワクワクしたように入り、こういうのを洋風っていうんだな!と笑う。
「主、仕方ないからお茶を入れるけど、最低二振りはつけておいておくれよ」
歌仙さんの言葉に、恐らくみんなついてくるので大丈夫では、と思うけれど素直に頷いておいた。
「刀身には異常はない。となると違うのは」
ふむ、と考えた審神者さんに山姥切さん――加州さんが教えてくれた――は胸元、と大包平さんの胸元をさした。
「何かがついてる」
「お、それ、俺も気になってたんだよな!だいたいの刀は大なり小なりそれつけてるだろ?」
短刀や脇差と遊んでくれていたらしい鶴丸さんが縁側に身を乗り出した。
「多分、それと似たようなものがそこに飾ってある花だとは思うんだけどな。似たような感覚がするし」
なるほど、勘がいい。
「これは?」
「誉の証だ。誉をとれば主がくださり、誉を十回取れば胸につく勲章に変わる。大きさはそれが何回あったか、だ」
長谷部さんの返答に、彼は「ふむ」と考える。
「触っても?」
「構いませんよ。ただ、冷たいので気をつけてくださいね」
私はそっと大包平さんの勲章ブローチを外す。そうして審神者さんに手渡そうとしたが、鶴丸さんが「俺が受け取ろう」とブローチを受け取った。なるほど、審神者同士で物の受け取りは好まれないらしい。
「冷たい!?なんだ、これ、氷か!?」
「氷?」
「ほら、主も山姥切もさわってみろ!」
その言葉に彼らは勲章ブローチを触る。山姥切さんが飛び上がるように手を引っ込めた。
「なんだ、なんで冷たいんだ」
「氷っぽくないか?」
「氷なら普通溶ける」
「そりゃそうか」
「……悪い物じゃないな。逆に刀剣達をなんらかの形で守るようになっている。だが」
そう言った審神者さんは両手を上げた。
「理論も何もわからん。鶴丸のいうようにこれは氷で間違いないが、解けない理由もわからなければ中に何かに入っているのがなにかもわからん」
「珍しいな、主はこういう物に詳しいのに」
「わからん。俺が触ったことがないもんだ。わかることは一つ、多分これは陰陽術でも神術でもない、恐らくは東洋的な物でもないってことだけだよ」
「わ、すごい、そこまでわかるんですか」
素直に感心していると、審神者さんが私を見る。
「私達もあの現象は初めてだったんです。恐らくは私のま……霊力が彼に馴染んだこと、 彼の勲章ブローチの光の加護が強いことが相まってああなったのだと私は思います」
「光?」
「なんだ、主、それは初めて聞くぞ」
大包平さんの言葉に頷く。確かに言っていないことだ。
「わかりにくいので言わなかったんですが、色にはそれぞれ意味があります。大包平さんの勲章や花は白、即ち光の魔法の素を閉じ込めていますので光の加護が強いんです」
「光?あぁだから夜になると百合の花が薄らに光っているのか」
縁側でお茶を飲んでいた鶯丸さんがこちらをみながらそう告げた。そういうことです、と頷けば大包平さんは私をみる。
「なら主、鶯丸の緑は」
「風の魔法の素ですかね」
「まて、今、なんと言った!?」
「?」
「魔法!確かに君はそう言ったな!?」
目をキラキラさせた鶴丸さんが私の手を掴む。審神者さんが鶴丸さんの首根っこを掴むのと大包平さんが私を引き寄せるのは同時である。
「お前な……人に地雷云々言っておいてそれはないだろ」
「あぁすまない、俺としたことが。つい驚きのあまり興奮してしまった。だが、主!魔法!魔法と彼女は言ったぞ!」
「聞いた。だが、いいか、鶴丸。魔法だなんてものは西洋でも扱えるものはいないとされているんだぞ。善良であっても魔女はかの魔女狩りでみんな死んだともされている。第一そんな非現実的なものが今の時代あってたまるか」
「おん。おんしのその気持ち、外からきたわしも重々わかるぜよ」
陸奥守さんが審神者さんの肩を叩いた。
「でも、魔法はあるんじゃ」
「というか、魔法じゃないなら俺が食らったあの斬撃はなんだと思ったんだ?」
「俺の知らない呪術だと思ったからこうして話を聞きにきてるんだろ。話を戻すが、白が光、緑が風なら他の色はなんなんだ?見たところ、あと赤や青、水色や黄色があるようだが」
「赤が炎、青が水、水色は氷、黄色が雷です」
「五行の思考に近いな」
「五行の話は聞いたことがあります。恐らく近いでしょう。私が使えないだけで地面に関するものもあると聞きます。水は氷の派生に近く、それいがいは対があると私は習いました」
「へぇ、じゃあ、光の対もあるのか?」
「ありますが、地面と同じく私は扱えません」
「五行の発展形か……?」
悶々と考えている審神者さんに、鶴丸さんがワクワクしながら「これは見せてもらうっきゃないな!」と審神者さんの肩を叩いた。
「お前も気になるだろ、山姥切」
「……別に俺は」
「いや、まんばの意見がどうであれ、ここまで明らかに審神者自体が白なら、俺はあれがどういうものかを分析したい。だが、様子を見るに、刀剣は自在に力を扱えているわけじゃない」
その言葉に、大包平さんがピクリと反応した。青筋を浮かべているような気がする。まぁまぁ、と彼を宥めさせれば気にしていない審神者さんは口を開く。
「アンタができるならアンタにやって欲しいんだが」
審神者さんはそう言って私をみる。ううん、兄弟子の一人に似ているなぁ、と私は関係がないことを考えていると大包平さんが先に口を開いた。
「断る!さっきから黙って聞いていれば、主を疑って来たんだろう、貴様は!そんな奴に主の力をみせる必要はない!」
「じゃあ大包平ができるようになってくれよ。できるだろ、天下五剣より凄いなら」
あ、これは乗せられる気がする。私はあまりそんな面を今まで見たことがないが、大包平さんの前の発言で彼は天下五剣にこだわりみたいなものがあるのは聞いて取れた。
「い――」
「それも断る。大包平は貴方のおもちゃではないのでな」
大包平さんの口を長谷部さんが手で覆い、鶯丸さんが答える。殺伐としてきたので私は口を開いた。
「……他の本丸の方に他言無用ならば引き受けますが。貴方の言葉を聞いたところ、やはり異質なようなので」
「ん……そうだな、異質な奴は審神者会には色々いるがアンタは飛び抜けて異質だ」
「主」
「似たようなものをおひとつお渡ししましょう。あの斬撃を調べるにしろ、ブローチにしろ、花と同じ素との関係ですので。もう少し貴方を知ってから私達に害がないとわかればお見せしましょう」
そう譲歩すれば彼は「初対面だしそれもそうか」と頷いた。私はいつものように指揮をする様に手を振る。被ってない花といえばなんだろうか。雪姫でいいか、と小さく可愛らしいその花の形をした氷に光の加護を詰め込み一輪の花をつくる。
「どうぞ」
「は?はぁ??」
「今のはなんだ……」
「魔法だ!これこそ魔法だな!主、受け取らないなら俺が受け取るぞ!」
花をとった鶴丸さんは覗いたりあらゆる角度から眺めたりしている。いまだ混乱している審神者さんと山姥切さんを大包平さんが立たせた。そうしてずるずると引き摺られていく。鶴丸さんはスキップをしながらその後に続いた。
「主、よかったのですか?」
「あれで引き下がってくれたからまぁ……今日は大包平さんの一撃で有耶無耶になったけど、向こうが勝っていたし……みんなには悪いけれど」
眉尻を下げてそういう。あの審神者さんのようなタイプはあの手この手で目的を達成すというか、頭の回転がとても速いのである。恐らく大包平さんを揺すった次は私か他の刀剣に話を振っていただろう。小さくため息をつけば、光忠さんが甘いお菓子を出してくれた。嬉しい。
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