白い魔女と本丸(2)
「手入れ、ですか」
「まぁ大将にとっては傷の手当てだと思った方がいい」
そう告げた少年は薬研藤四郎というらしい。トーシロー君、と呼ぼうとすれば兄弟のほとんどがトーシローだから薬研でいいと言われてしまった。長谷部さんが口を開く。
「先程お目通りした刀剣は十二」
「実際はここには二十七の刀剣がいる」
「では後の十五は?」
「手入れを受けられていないため、身動きを取れません」
「貴方達よりも酷いということですか」
私が尋ねれば彼らも、私達の周りいた刀も固まってみせた。私の返答に対し眼帯をつけた男性――光忠さんが首を傾げた。
「……わかるのかい?」
「どこかしらかばった歩き方をされるな、と思っただけです。薬研くんも怪我をされてますし」
普通の人間の怪我ならばケアルで治るだろう。でも、彼らは普通の人間ではないのだから恐らくは変わらないのかもしれない。通された別の広間には沢山の刀と人が伏せているのが見えた。それも放置していいような状態ではない。人間なら恐らくは。部屋の中にいる誰かが、小さく兄ちゃんと誰かを呼んだ。その言葉に弾かれたように金色の鎧を着た――蜂須賀さんが中に駆け込む。
「兄ちゃん、新しい主はきたの?」
「あぁ、きたよ。今すぐに治してあげるからね」
その会話に私は長谷部さんと薬研を見る。彼らは静かに首を左右に振った。
「資源が足りません。今治せるのは一振りが二振りです」
「それ、は、」
「大将、大丈夫だ。俺たちは折れない限り生きていける」
「いいかい、ナマエちゃん。ここにいるのはみんな誰かの家族なんだ。だからこそ、重傷の刀から優先してほしい」
真っ直ぐに言い切った光忠さんに私は言葉を止める。ああなんて悲しいことだ。酷いことだ。はらはらと溢れた涙は止められそうもない。ついて歩いてきていたこんのすけが私を見上げる。
「主様、何故泣くのです。彼らは物でございます。物はいずれ壊れるもの。刀など戦で使うものです。戦場で傷つき、折れる。それが道理というものではございませんか」
「どうしてそんなことをいうの」
はらはらと落ちる涙を拭う。
「彼らには体も心もあるのに、君はどうしてそんなことをいうの?刀だとかそういうのは関係ない」
「主様、優しいのはいいことです。慈悲深いのもね。しかしここは戦です。この敷地から一歩他の時代に踏み出せば、戦場なのでございます。一振り、二振り刀が折れる、その度に貴方が涙を流そうと事態は好転いたしませんよ」
そんなこと、私は知っている。だから、私は「知っています」と言葉を紡ぐ。
「そんなこと、理解はしています。でも、悲しいんです。心が痛いんです」
そう言って蜂須賀さんのそばに歩み寄る。目に包帯を巻かれた少年の手を私はそっと握った。
「きっと全員治してみせます。貴方も」
「新しい主さん?……俺は大丈夫。もっと酷い刀がいるだろうからそっちを治してやってよ」
「えぇ。でも、貴方も必ず」
ケアルを使えば気休めにはなるだろうか。そっと彼の手を両手で包んで目を伏せる。
「貴方の未来に光あれ」
ケアル、と小さく呟く。魔法が発動したのがわかった。そっと目を開き、手を離す。また目を見開いて固まる周り。少年は小さく「今の何」と口を開く。そうして自分の身に起こったことを理解した。それは恐らく、薬研くんもだ。乱雑に包帯を解いた薬研くんに、目の前の少年は私を見て――まわりをみた。
「……傷がない!長谷部の旦那!刀身を確認してくれ」
弾かれたように長谷部さんが近くにおいてある刀を鞘から抜いた。蜂須賀さんは少年に抱きつく。
「刀身は傷ついたままだ……」
「服は治ってない……人体にだけ作用した?どういうことだ?俺たちは何を見ている?」
「手入れをすると、体だけでなく刀身も戻るのですか?」
「……あぁ、そうだよ。普通は刀身を手入れすることで僕らの体が治るんだ。僕らの本体は刀だからね。『入れ物』だけ治るなんてありえない」
「でも実際に起こっている」
私は涙を袖で乱雑に拭う。体が元気になるのなら、多少の無理も仕方がない。
「先に同じ方法であればある程度治せます。治してしまっても構いませんか?」
「!あぁ、だが大将は平気なのか?」
「私は大丈夫です」
薬研くんの言葉にそう頷く。
「ただ、何か不具合がおきても怖いので、刀身がなおるまでは安静にしてもらった方がいいかもしれませんが……」
「あぁ、そうだな」
「特に酷い刀は手入れをしましょう。ただ、優先度がわかりませんので」
「そこは我々にお任せください」
そう一礼した長谷部さんによろしくお願いします、と頭を下げる。そうして私はもう一度大きく息を吸って――けが人と向き合うための気合いを入れた。
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