SQUELCH!!


白い魔女と眠れる心(2)



「へぇ、よくわかんないけど面倒な世界にまた生まれちゃったもんだなぁ」
 マスターはそう言って頬杖をついて私をみた。面倒なのだろうか、と考えていれば、大包平さんが口を開いた。
「面倒とはどう言うことだ」
「いやぁ、面倒でしょ。どうあがいても終わりが見えないだろ?未来はかなり先があるんだぜ?未来に終わりがない限り戦いの終止符はないように思えるがな」
「今の戦いが無意味だと?」
「いや、相手が無意味だろ?未来は確定した物なのに、それに抗うなんて烏滸がましいだと思わないか?どんな運命でも受け入れる、それが大事」
 運命は変えられない。基本的には。私はだから昔自分の運命を受け入れた。生きたくなかったのかと言われたら嘘になるが、それでも私は自分の運命に少しだけ助けられたのだ。
「そもそも、生まれちゃったと言うことはますたー殿は何時から主と知り合いなんだ?」
蜂須賀さんがそう尋ねる。マスターは「それ聞いちゃう?」と告げた。
「な、ん、と、ナマエが一回死ぬ前から知り合いです」
「はぁ?」
「ぶっちゃけ前の人生でしか関わりはないんだよねぇ」
「意味がわからん、どういうことだ」
「俺の知るナマエは病気で死んだ。でも、妖精がかけた魔法でそっくりそのまま生まれ変わった」
「妖精?」
「妖精……それは御伽話か何かかい?」
「あぁ、そういう認識なのね、この世界。じゃあ、そういう認識でいいと思う。ま、俺とナマエはふかーい仲ってわけだ」
 そう大包平さんに向かってニヤリと笑ったマスターに私は首を左右に振る。
「ふかーい仲、というか、ただの師弟関係ですけどね」
「ナマエー、のり悪いよー」
「……それよりマスターはどうしてここに?」
「んー、旅?みたいな感じで……」
「イラ兄さまたちは?」
「……イラ達はあの街にいるよ」
 真面目な声でマスターはそう告げた。この人はまた、と思ったけれど、マスターが何か眉間にしわを寄せているのが見えた。しばらくの沈黙の後、彼は私をみる。
「ナマエ、決してデイブレイクタウンには戻るな」
「……どうしてですか?」
「あそこにお前は戻っちゃいけない。今のお前の居場所はあそこではなく、ここだ。イラ達の知るお前は死んだんだ」
「でも、」
「もー!でも、じゃないの。あそこに帰っちゃだめ。帰れないだろうけど、ダメ!坂道と一緒に広がってる模してる街で我慢しなさい!」
 めっ!と茶目っ気たっぷりに叱った彼に私はしょんぼりとする。そんな顔してもダメ、だそうだ。
「話は変わるけど、ナマエ、キーブレード は?」
「相変わらず出せます」
 ムッとしながらそう言って答えてみる。拗ねているのは自覚済みだ。
「だろうなぁ……ナマエ。あんまり出来ることを教えるな」
「……どうして?」
「どうしても、だ。後、一応、敵にも気をつけた方がいい」
 相変わらず答えは教えてくれないらしい。それを気をつければあとは心に従えばいい。マスターはそう言って柔らかく笑んだ。
「鍵が導く?」
「……心のままに」
「そう!じゃあ俺はナマエが元気に生きてる世界を知れたし、そろそろ行くか」
 そう立ち上がったマスターに、大倶利伽羅さんが「一期一振はいいのか」と私に聞いた。私はマスターの服の端っこを掴む。
「マスター、帰られる前に一人だけ診てほしいのです」
「みる?なにを」
「眠ったまま起きてくれません。外傷病気、はたまた魔法ではなさそうなんです」
「そこまでわかってるならわかるだろ?」
「はい、心の問題だとはわかるのですが、心の一部が欠けているのか、それとも悲しみの あまり眠り続けているのかわかりません。だから……」
「ナマエ、それはナマエが解決すべきことだ。俺じゃないよ」
「……」
「もー、そんなにしょんぼりしない!そうだな、たった一つヒントをやるなら、そいつは夢の奥まで進み心が戻ってこないか、ナマエのいうように心の一部が欠けて――誰かの心に移っているかだ。例えば、悲しみにくれて眠ったなら前者だし、誰かを庇ってそうなったなら後者だ」
 そう言ってマスターは私の手を優しく解くと、私の頭を優しく撫でる。
「鍵が導く心のままに進め、ナマエ。そうすればいつか答えにたどり着く」
 マスターは真面目な声でそう言うと私の頭から手を離した。そうして、くるりと後ろをむくと、じゃあな、と狭間の回廊を開けて見せた。
「よくわからないお前らはナマエを守ってやってくれ」
「怪しいやつに言われなくとも守るわ」
「そう、ならよかった。じゃあな、鍵が導く心のままに」
 マスターが回廊に入るとその回廊はなかったかのように消えていく。マスターが願うように口を開く。
「ナマエ、今度こそ幸せに生きろ」
 そうしてなにもなかったかのように消えた回廊にあたりは騒然とした。私は回廊があった場所を見つめる。
「マスター、私はあの時も、確かに幸せでしたよ。もちろん、今も」
 息をそっと吐く。あたりを探し終えた刀剣達が私のそばにやってくる。
「主、今のはなに!?あいつ急に現れて急に消えたんだけど!」
「あの人は昔からああなんですよ。やることなすこと結構急なんです」
 苦笑いして空を見上げる。今日も透き通るような青空だ。あの街と、同じような。



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