SQUELCH!!


白い魔女と眠れる心(3)


「一兄の目覚め方って、もしかしてキスじゃない!?」
 そう言って乱ちゃんが御伽話の本を抱えてやってきた。本当は乱くんであるが、私が最初に呼んだ時にちゃんづけだったことと本人の希望によりちゃん付けのままだ。御伽話にはまっている彼の部屋にはお小遣いでかった御伽話の書物がたくさんある。今日持ってきたのも恐らくその中の一つだろう。
「キス?」
「接吻だよ、接吻!主が接吻したら起きるんじゃないかな!」
「はぁ!?」
 本日近侍の大包平さんが叫びながらガタリと立ち上がる。その大きな声に私とそこにいた近侍見習い中の五虎退が肩を跳ね上げ、お茶を持ってきていた鯰尾くんは耳を押さえた。
「何故主が一期一振と!」
「まぁまぁ……乱ちゃん、私もその手の魔法かなって調べたんだけど違うみたいだったから……」
「なんだぁ、そうかなって思ったのになぁ」
 そう唇を尖らせた彼に、大包平さんが咳払いをする。
「一応聞くが、どんな話なんだ」
「結構キスで何か起こるなんて御伽話じゃ王道ですよ。白雪姫、眠り姫……一兄は眠り続けてますし、眠り姫みたいだと言えばそうですけど」
「ねぇ、主、物は試しだからやってみない?」
「やりません」
「絵になると思うんだけどなぁ」
 はぁ、とため息をついた乱ちゃんの頭を撫でておく。彼らは彼らなりに、兄を目覚めさせる方法を探しているのだろう。
「でも、主さまのお師匠さまが言っていたのは、どういうことなのでしょうか……」
「俺たちが遠征中にきてたっていう?」
「はい」
「確か……夢の奥にまで行っているか、他者に心が移っているか、だったか」
 大包平さんはそう言って少し考えたようだ。おそらく、彼は最後に一期さんが起きていた時を知っているに違いない。でも、触れていいことなのだろうか。そうこちらが戸惑っていれば、五虎退くんが口を開く。
「えっと、一兄が最後におきていた時は、どんなかんじだったんですか……?」
 そう尋ねた彼に周りの視線は彼にむいた。
「今の主さまの前が、どんな審神者だったのか、僕は知りません。でも、ひどい審神者だったんだろうなって……」
「その前日に一振り目の秋田とここにいた三振り目の五虎退が折られちゃった」
「――え?」
「……秋田と五虎退は練度が高かった。だが、その時、無理な出陣が続いていてな。短刀だけの部隊も動いていた。その出陣先で折れたと俺は聞いた。一期一振は優しすぎた。粟田口が折れるたびに悲しんでいたのを覚えている」
「ひどい、そんなの……」
 五虎退くんが涙目になる。黙っていた鯰尾くんが大包平さんをみた。
「……その次の日でしたよね、大包平さんが一兄と出陣してああなったのは」
「あぁ、一期一振と鶴丸が別同隊として動いてくれていたんだが――検非違使の奇襲にあったらしい。俺たちが駆けつけた時には鶴丸は折れ、一期一振は大太刀と相討ちになっていた。おそらく、お前たち弟がいなければアイツはあそこで折れていただろう。なんとか連れ帰る途中はまだ喋っていた」
 大包平さんは目を伏せる。
「アイツは俺にお前たちを頼むと告げ、俺は自分で守れと叱ったんだ。その時、アイツが持っていたのが――大太刀からドロップしたのが今ここにいる秋田だ」
 大包平さんは思い出すようにそうつげる。ととと、と足音が聴こえてきて「主君!」と元気な声が聞こえた。
「今日のおやつは、なんと主君お気に入りの羊羹です!食べにいきましょう!」
 ニコニコと笑いながら告げた彼は私の手を引いて部屋から連れ出した。周りもそれに合わせてゾロゾロと部屋を後にした。




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