SQUELCH!!


不思議の本丸の刀剣(1)



 例えば、その海の先に何があるのか、だとか。
 その部屋から出陣ゲートの方を見下ろせば、随分とデイブレイクタウンに模した街並みが広がっている。風が顔にあたり、潮の香りが鼻をくすぐった。穏やかな日が差し込むそこは、彼の一番のお気に入りの場所であるらしい。
 お気に入りの場所というのは様々だ。例えば広がる街並みの建物の屋根の上。お店屋さんを模したその建物の中。花が咲く公園に、街のどこかにある秘密基地。本丸の中よりも街の方が気に入っている人は多いようであるが、彼はあの街を見下ろすことができる本丸の一番高いところが好きである。
「ほんに、綺麗な場所ぜよ。まるで外国じゃ」
「普通はやっぱり和風なんですか?」
「さぁのぉ。ワシのおった本丸は基本の形のまま変わらんかった。でも、ま、基本の形は和風じゃな」
 陸奥守さんは思い起こすように告げる。
「前の主は全く本丸におらんかったき、形が変わらんかったんじゃ」
「本丸に?」
「おん、ワシらのところにおったこんのすけ曰く、政府の偉いお人の子供でな、興味持ってやりたい言うたけんど、飽きたんじゃろうて。ほんに、気ままな奴ぜよ。こっちの気もしらんで」
 少しの寂しさを滲ませて彼はそう告げる。きっと彼は、彼らはその人の帰りを待っていたのだろう。あの場所にいるのはさまざまな境遇をもつ刀剣だという話は聞いていたがこう聞くと本当に違うのだ。
「ま、そのおかげでワシらはここに来れたんじゃが」
 あっけらかんと彼は笑う。私は彼の頭をクシャクシャと撫でてしまった。どうもこの刀は笑顔で本心を隠すところがある。
「わ、主、なにしゆうが、ワシは短刀じゃないき、頭撫でるのはやめとおせ」
「また会えますよ、きっと」
 そう言って手を離した。彼はパチパチと目を瞬く。そうして肩を震わせておかしそうに笑った。おかえしと言わんばかりに彼は私の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「まっこと、不思議にゃこと言う女子ぜよ。そうじゃな、またあったらおんしのこと自慢しゆう」
 彼はそう言ってまた海の方を見た。
「主はあの海の先に行ったことあるがか?」
「いいえ、行ってみたかったんですけど、結局は一度も行きませんでしたね」
 私もまた海を見る。ぼうっと二人でしていれば、下から騒ぎが聞こえる。なんだ?と思えば出陣ゲートに刀達が集まっているのが見えた。慌てたように短刀が私に手を振る。どうやら帰還した刀剣に何かあったらしい。とん、とそのまま柵を飛び越える。陸奥守さんが「主!」と手を伸ばし、刀剣達が慌てて寄ってくる。私はそのまま地面に降りたのだが。 とりあえず陸奥守さんに手を振っておく。彼は見るからに安心していた。
「主!?大丈夫!?」
「あれくらいの高さなら大丈夫です。加州さん、どうかしましたか?」
「えっ……と、刀剣男士を拾ったんだけど」
 彼はそう言ってゲートの方を見る。刀剣男士を拾った、とは?私もまたそちらを見れば確かに色々な刀剣男士がいた。見たことがない人も多いそれに首を傾げていれば、こんのすけがぴょん、と現れた。私はそのままこんのすけを抱き上げる。
「恐らく政府のゲートメンテナンスに弾かれてしまったのでしょう」
「ゲートメンテナンス?」
「主さまには関係がないことなので黙っていたのですが、一部の本丸は政府で用意したゲートを出陣に使用したり、場所の行き交いに使用します。そのゲートのメンテナンス日ですので、十四時よりゲートが使えなくなったのです。独断で使用された審神者様がいたのでしょう」
「そう言うことだ!」
 後ろから聞こえた声に肩を跳ねさせる。驚いたか?と声をかけてきたのは鶴丸さんだ。恐らく感覚からしてお隣さんである。
「助かったぜ、うちの主は何かに熱中しだすと他が疎かになるんでな。1日遠征先から帰れなくなるところだった!」
 カラカラと笑った彼は「で、だ」と頰をかいて笑顔を苦笑いに変える。
「主と連絡しておきたいんだが、連絡機を借りてもいいか?」
 その言葉に私はこんのすけと顔を見合わせた。



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