SQUELCH!!


不思議の本丸の刀剣(4)



「おはよう!お隣さん、いい朝だな!」
 本丸と出陣ゲートを繋ぐ坂道の間には裏門みたいなものがある。そこを潜ってすぐにお隣の鶴丸さんがいた。ヨッと手をあげた彼に私は首を傾げた。端に座っている同田貫さんが私を見上げた。
「あいつは昨晩からここにいる」
「ひどいな、門番が一人じゃ大変だろうから手伝ってただけじゃないか」
「でも最初アンタは入ろうとしてたろ」
「あぁ、だが、弾かれてしまった!驚きだったぜ」
 楽しそうに笑って見せた鶴丸さんとは対に同田貫さんは疲れたように息を吐いた。
「……ありがとうございます。お疲れなのに」
「いや。何振りかアンタに礼が言いたいみたいだったが追い返しといた」
 あくびをこぼした彼は頭をガシガシとかく。
「主が大丈夫みたいなら俺は寝るぜ」
 その言葉にもう一度お礼を言えば彼は後ろ手を振って本丸の中に消えた。鶴丸さんは目を瞬いて私を見た。
「昨日の気迫とは大違いだな」
「?」
「いや、こっちの話だ。お隣の光忠、世話になるんだ、手伝う」
「ありがとう、お隣の鶴さん。助かるよ」
 はい、と渡された大きなお鍋に彼はそれを持って坂道を下る。
「そう言えば君は昨日大丈夫だったのか?大包平に担がれて帰っていたが」
「はい、大丈夫です」
「そうか、よかった。政府のゲートを使わないとより正確に出陣できるとは言え負担がかかると主に聞いてな」
 鶴丸さんの言葉に周りは私を見た。私はあまり実感がないので首をかしげる。
「……そうなのか?」
「私の場合特に負担はかからないのですが……負担がむくとすれば恐らく出入りする方だと思います」
「僕たち?」
「はい、皆さんに最初に渡したお守りはそれをなくすためのものです。なので他の方々にかかっていた負担を軽減するために昨日は祓ったのですが……私にかかった負担といえばそちらですかね」
 そう肩を竦める。噴水のある広場にはたくさんの刀剣達がいるのが見える。何振りかが私達に気づいてかけてきては手伝いを申し出てくれた。私が広場に降りる頃にはだいたいの刀剣が広場に揃っている。
「申し訳ないんですが、料理が得意な方は朝食作りを手伝っていただけると助かります。あと、食材が和食のものより洋食の方が多くって」
 私の言葉にそこにいた彼らは顔を見合わせた。そうして、手前にいた男性が穏やかに笑う。
「よし、てつだおう」
「あぁ、小豆、頼むぜ。俺は手伝いもできないしな」
「うん、そうだね、つるまるどのはわたしたちのほんまるではくりやにもはいれないし」
「え?どうして?」
「鶴さんの作るものは全部炭になるんだぞ!」
「おっと謙信、違うぞ、炭じゃない。だーくまたーだ」
 なるほど、壊滅的なのか。そう思っていれば、別の本丸の光忠さんがやってくる。
「わぁ、本当だ。食べ物も洋風が多いんだね」
「こむぎにたまご、じゃむやとまと。ぱんけーきはどうだろう?にんずうもいるようだし」
「あぁ、それは良いね、別の本丸の小豆くん。付け合わせにサラダとスープでオーケーだ」
「でも、どこで作りましょうか」
 眉尻を下げた青年に私はうーん、と考える。確か飲食店があったはずだ。
「確か、中央市場への道の隣だから……」
 そうあたりを見渡そうとすれば、何か歯車が回るような音がした。かちゃん、とかぎがまわるおとがして、重い扉が開く音もする。小さな男の子が小豆と呼ばれた男性の後ろに隠れた。
「わ、わわ、いきなり大きな扉が開いたぞ!」
「……空間をまた広げちゃったかもしれない」
「……構わん、どうせ前の主が残した穢れが祓われただけだ」
「そうそう、何もないよりマシだしね」
 大包平さんと加州さんの言葉にほっとする。別の本丸の光忠さんが「あぁ、なるほどね、」と何かに納得したようである。首を傾げれば彼は笑顔でなんでもないよといってのけたけども。
「それより、キッチンはどこのをつかえばいいかな?」
「えっと、こちらに」
 彼の促しに私は中央市場につながる隣の建物に向かう。
「そこは開かずの間だった場所だね」
「はい、でも、ここは確か――レストランでした」
 扉を開ければ、飲食店の中身そのままだ。奥の厨房は広かったはずである。厨房を覗けばやはり広いそこ。いかがですか?と聞こうと振り返れば、感激していた。主に光忠さん達が。
「ここを使っていいんだね!?」
「はい、どうぞ」
「よし、これはテンションあがっちゃうな」
「これはよいくりやだ。みつただたち、わたしもてつだうよ。えぷろんは……これいじょうわがままはいえないな」
「上着だけでも脱いでおきましょうか」
 つい癖で魔法で取り出そうとしたら大包平さんが手をつかんで止める。歌仙さんがやんわりと「主」と叱った。これはいけない。いつボロが出るかもわからない。
「……大包平、今日の近侍は君が当番だったはずだから主と一緒に長谷部と合流してきたらどうだい?今日の仕事の確認があっただろう?」
「あぁ、そうさせてもらおう」
「ここは俺たちに任せてもらって大丈夫だよ、主」
 加州さんの言葉に私は頷く。お願いします、と眉尻を下げれば、こちらこそありがとうと笑われてしまった。ふむ、やっぱり本丸によって多少仕草や声のトーンは違うらしい。
「主、行くぞ」
 少しムッとした大包平さんに手を引かれる。もう一度手を振ってそこを後にした。

 そのままとりあえず刀剣達が賑やかなので、中の食器やテーブル拭きなどを軽くお願いしておく。大包平さんがなかなか進まない私を見てひょいと私を担いだ。
「わ、わ!?歩けますよ!」
「こうした方が早い!」
「ちょっ、わ、坂道ダッシュは流石に、」
 彼はそのまま坂道を駆けあがった。流れていく景色がはやい、し、広場がだんだん遠くに見える。門のところにいた鶯丸さんが口を開いた。
「大包平、主が困っている」
「……いつまでもあそこから動け無さそうだった」
「とはいうがあそこには天下五剣がいるそうじゃないか」
 鶯丸さんの発言に大包平さんがぴくりと反応する。天下五剣とは?と聞けば「主は興味を持たなくてもいい!」と大包平さんがちょっとムッとして答える。鶯丸さんはクスクス笑うだけであるが。
「主、長谷部が探していた」
「今から合流しようと思いまして」
「鶯丸、長谷部は何処だ」
「こっちだ」
 そう歩き出した鶯丸さんに大包平さんは私を担いだまま歩き出す。もう何も言うまい。子供ではないのだけれど、と、ムッとしていれば合流した長谷部さんが目を白黒させた。
「主を下ろせ!大包平!何をしている!」
「あぁ、長谷部、大包平はな広場のほうにてんか――」
「鶯丸!」
 今日も仲が良さそうで何よりですある。



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