白い魔女と黄色い勇者(3)
大包平さんが少し怒ったような表情でズンズンと歩いてくる。何かあったのだろうか、と思っていれば彼は「主」と声をかけた。
「魔法を使ったのか!?」
その言葉は彼が思っているより響いた。私は苦笑いして彼を宥めさせるためにまぁまぁと声をかける。それを肯定ととったのか彼は言葉を続ける。
「主、あれほど使ってはいけないと……!」
「大包平さん、大包平さん」
食事の準備をしていた光忠さんが大包平さんに声をかけた。
「なんだ、今忙しい――」
そこでようやく周りが注目していたことに気づいたらしい。ピシリと固まった大包平さんに光忠さんが苦笑いをした。私も苦笑いである。蘇我本丸の小豆さんがこてんと首をかしげる。
「まほう?」
「そんなものがあるのかい?」
別の燭台切さんも困ったようにつげた。大太鼓くんが「そういや」と口を開いた。
「確かに昼過ぎにそういう話題になってたなぁ」
「ぼくもきいたぞ。おいしいあいすきゃんでーがまほうでできるって」
謙信くんの発言に、大包平さんが頭を抱えた。私も光忠さんも苦笑いである。短刀達に秘密をしといてというのを忘れていたこちらの落ち度もある。恐らくは魔法の話題が出たときに数珠繋ぎにそういう会話になったのだろう。
「でも、まほうがつかえるひとなんて、もうずいぶん昔にいなくなったはずだって主はいってたぞ」
「へぇ、謙信くんは物知りだね」
お隣の審神者さんが恐らく何か告げたんだろう。
まぁこの世界においてもあれらの世界においても魔女はあまりいいイメージを抱かない人が多いのは確かだ。あの世界でも良い魔法は妖精の、悪い魔法は魔女の、という偏見がある。
謙信くんは少し心配そうに口を開いた。
「さいきん主がずっとあたまを抱えてるんだ。まほうなんてあるはずがないって。しゅつじんみすもそれでなんだ」
ガックシと肩を落とした彼に、私の責任もあるなぁと困り顔をする。
「でも、確かにここの審神者さんって不思議ですよね」
カウンター越しに顔を覗かせた物吉くんが口を開く。
「僕の主君は御簾の向こうにいつもいてこうやって話すことなんてないですし、顔を隠している審神者は多いと思うんですが」
「そうだね、僕の主も顔を隠している」
「そうなのかい?うちのあるじもこうしてはなしているよ。でも、たしかにかおをかくしているさにわはおおいね」
確かに演練で会う審神者の多くは顔を隠している。
「私はこうやってきちんと顔を合わせて話す方が好きです。何か越しの会話なんて、対話にはならない気がして」
――あの頃。時計塔に行く前は、何か越しに会話することが多かった。それは恐らく私を人として見る人が少なかったからだろう。真白に囲まれた世界で、花さえも彩りを灯さず白い世界できちんと話してくれたのは私を連れ出したマスター達だけなのである。本来ならば多少の上下関係はあれど皆対等であるはずなのに。
「何か越しの会話は私は寂しいので好きではありません」
私の呟くような言葉に燭台切さんが「わぁ、ちゃんとした女の子だ」という感想を漏らした。意識がそちらに向いたらしい。件の燭台切さんが「ごめん」と謝った。物吉くんが苦笑いしながら告げる。
「でも、魔法かぁ。審神者さんなら使えそうですね。こう、幸せを運ぶような魔法を!」
「結局使えるのか?」
そう言って私をみた大太鼓くんに苦笑いする。秘密です、と言って私はオレンジを切る作業に戻った。大包平さんもそれで良いだろう。
「えー、なぁ、教えてくれよ」
「女の子は甘いお菓子と秘密でできてるからちょっと難しいかなぁ」
そんな私のふざけたような発言に、小豆さんが「わぁそれはすてきだね」と笑った。……冗談だって理解してくれてるだろうか。
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