生まれざる者(1)
他の本丸の人たちに説明をし、自分の本丸の人にも説明をする。とりあえず、私は片っ端から手当をするのと二人の審神者とその本丸の刀剣を私の本丸に招き、そこから獅子王さんの本丸に送り届けるという仲介役である。本当ならばゲートをかいし、獅子王さんの清水本丸にのりこみたいのだけれど、どうやらロックか何かによって無理だという。しきりに心配している短刀達に大丈夫だという。そんな、準備の最中である。三日月さんが隣に並んだのは。
「――ナマエ殿はおそらくあまりこちらの界隈になじみがないのだろう」
三日月さんはそう言って私を見下ろした。
「だが、ナマエ殿、このじじいの言葉を覚えておいてほしい。名前をあまり明かさぬ方が良い」
「どうしてですか?」
「どうして、か。ふむ、やはりナマエ殿は疎いか。仕方がない。ナマエ殿、おれ達は名を明かされても基本的にどうこうはしない」
「どうこう?」
「ああ、おれ達は人ではない。だから、人間の名を握ることで操ったり、隠したりといった悪さが出来る」
「でも、貴方達はしないでしょう?」
困ったように首をかしげる。彼はにこやかにうなずいた。
「ああ、そうだ。おれ達だって基本的にはしない。ナマエ殿が信じているのと同じように、おれ達もまた主を――人間を信じているからな。だが、人間同士ではそうはいかない」
彼はそう言って私の心臓あたりを指さした。
「審神者にとって、いや、術者にとって同じ術者に名を知られるのは命を握られることに等しい」
その言葉に私は眉尻を下げる。審神者同士で争うと言うんだろうか。仲間同士にも似ているのに。でも、現に今私はその審神者と争おうとしている。三日月さんは言葉を続ける。
「ナマエ殿は酷く清らかな霊力を持っている。子供のように疑うことを知らぬのだろう。世の中は良い人間ばかりではない。貴女が信じていても、平然と裏切る者もいよう。貴女を妬み、怨む者もいよう」
彼の言葉に、「知っています」と返す。そんなことは知っている。世界が清らかでないことなど、あの箱庭の時から知っている。
「でも、私は、誰かを疑いたくありません。例え自分が傷つく結果になっても……でも、名前については以後気をつけます」
「――そうか」
三日月さんは柔らかく笑む。私の頭を撫でた彼に「わ」と声を上げれば、大包平さんがその手を払った。
「まぁ、この大包平がいれば大丈夫か」
「あたりまえだ」
「大包平、獅子王の本丸につないだ後、ナマエ殿にあまり向こう側をみせぬほうがいい」
ぽつりとつぶやいた彼に、私は首をかしげる。大包平さんは目伏せ「わかっている」とだけつげた。
世界と世界を飛び越える、すなわち狭間の世界をくぐるのだから祓う札をつけてきてもらいたいところである。そういえば、彼らはうなずいて手配をしてくれるらしい。こんのすけがうまく時計塔を模した噴水を触ってくれたようである。私はキーブレードを取り出し、その模した噴水に向ける。光が放たれて、扉が現れる。そうして現れた扉からはお隣の審神者さんが現れた。もう一度。次は虫垂れ衣と神主衣装を身にまとった定家本丸の審神者さんである。
「うげえ、余計に意味がわからん。どうなってるんだ?鍵か、それ」
お隣の審神者さんはそう言ってつぶやいた。じろじろと鍵を見た彼は「何かの文献で見たような」と首をひねった。現れた定家さんも同じである。
「私も詳しくはないが――西洋の方ではなかったか。まぁ、真白殿のことはさておき、問題にいくぞ、蘇我殿」
そう言った定家本丸の審神者さんは獅子王さんをみた。私の隣にいた獅子王さんは足元を見つめる。大丈夫だというように彼の背を撫でる。彼ははっとしたように私を見ると、頬を叩いた。
「うし、主のもとに案内は任せてくれ」
「――お前の主が無事であれば良いのだが」
定家本丸の審神者さんの言葉に私もお隣さんも彼も首をかしげる。いや、こちらの話だとつげた彼は私を見下ろす。
「では、真白殿、繋げてくれ」
その言葉に私はうなずいてその鍵にもにた剣を構えた。もう一度光が噴水に当たり、扉が現れる。大包平さんが「開ければつくはずだ」とつげた。獅子王さんが意を決したように扉を開ける。その先の景色がわかる前に――私の目は大包平さんに蓋をされた。わかるのは良くない気配がすることと、血なまぐさいような匂いだった。お隣さんの戸惑うような声に、定家本丸の審神者さんが「やはりか」とつぶやいた。
「なんだ、これ」
「穢れが呼び込んだ」
「穢れが?」
「通常、本丸同士の行き交いを勧めているのは本丸の『換気』を必要とするためゲートを開く必要があるからだ。『換気』されれば穢れは一部にとどまることはない。まぁ、通常の本丸だと換気せずとも良いだろうが。穢れが一部にとどまった、すると化け物どもが湧く。おれ達が動くのは刀剣を助けるためでも、ましてや審神者を助けるためでもない。穢れによる神域の侵蝕を止めるためにある」
定家本丸の審神者さんが三日月と声をかける。
「化け物退治、いってくれるな」
「あい、わかった」
恐らくはそう言って彼らは扉の先に足を踏み出したのだろう。それに続いてお隣さんが指示をする声が聞こえる。私は大包平さんの腕を少し掴む。誰かが駆け込んでくる音がする。燃えるような音も、炎の匂いも、何かのうなり声も。
「主は見るな」
大包平さんはそういって私を抱える力を強くした。
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