生まれざる者(3)
獅子王さんを手入れ部屋に押し込み、放心状態のその人をどうするかと見つめる。あんまりよるな、とは他の二人の審神者さんの台詞でもあり、刀剣の台詞でもあった。定家本丸の審神者さんはその人を見つめた。
「ああなった本丸の審神者が助かるのは珍しい。だいたい、負の感情の矛先というのは審神者に剥くからな。あの化け物はソレを理解しているのか、作り上げた負の感情による者が大きいのか――審神者を襲い食らう」
彼の言葉にお隣さんの審神者さんも鶴丸さんも「ひえ」っと言う声を上げた。
「助かっても記憶が抜け落ちている。負の感情が抜け落ちたといえば聞こえは良いが、感情がなくなる審神者も多数いる」
「感情が?」
「ああ。人形と何ら変わらん」
「廃人になるってことか?」
「それに近いだろう」
「あの人はどうなるんですか?」
私の問いかけに定家本丸の審神者さんは首を左右に振った。
「真白殿が知ることではない」
「――」
彼の言葉に私は困ったような顔をする。彼はちらりとこちらを見て、虫垂れ衣の先で苦笑いを浮かべた。
「心配するか。あの審神者は刀剣達を虐げた、その報いだとは思わないか」
「それはそれ、これはこれです。何か、力になれたら良いんですけど」
そう言った彼はぽん、と私の頭を撫でた。
「真白殿、貴殿のことは報告を一応伏せさせていただく。貴殿の力は異質であるが――あの化け物に対する唯一の対抗策だ。他に知られてしまえば、貴殿からは平穏が奪われるだろう。だが、そうだな、何かあれば君に言うとしよう」
「はい、お任せください」
そう緩く笑う。彼は「本当に清らかな霊力の持ち主よ」とつぶやいた。長谷部さんが役人を率いてくるのが見える。どうやらゲートが整ったらしい。彼は役人の元に向かい、あれこれと指示を出し始めた。お隣さんもそれに加わる。審神者であった人が連れていかれるのをみおくる。あの人にどうか幸運がありますように、と静かに祈る。
「主?」
隣から聞こえた声に目を開きそちらを見る。大包平さんが不思議そうな顔でこちらをのぞき込んでいた。
「ああ、いえ、あの人に幸運がありますようにって祈っただけです」
私の言葉に彼は息を吐く。呆れているのだろうか、と思っていれば「それでこそ俺の主だ」と彼は告げた。
「燭台切達が例のレストランで食事の準備を進めてくれている」
「あ、そういえば、パーティーをする約束でした。獅子王さんは起きるでしょうか」
「手伝い札を使いましたので、程なく終わるかと」
役人の案内を終えた長谷部さんがそう告げる。私は坂の上の本丸を見上げた。彼が良ければ、この本丸に、といいたい話ではあるのだけれども。
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