SQUELCH!!


黄色い勇者の旅路



 一命を取り留めた、といえば彼は見るからに安堵した。記憶がなくなっているようだと言っても、一命を取り留めたという安堵の方が大きかったらしい。ほっと息を吐いた彼に私は口を開く。
「貴方が良ければ、この本丸に、と言いたいところだったのですが」
 困ったような顔をしてしまうのは仕方ない。だって、彼の答えはわかる。定家本丸の審神者さんは逆に私に受け入れてもらえないかと促した。でも、それは私が選ぶ話ではない。彼らが選ぶ話だ。彼は綺麗な形で礼をした。
「――短刀達をよろしく頼む」
 その発言に、私は彼をじっと見た。
「助けてくれって言って、俺がこんなので申し訳ないんだけどさ、俺もう少しだけ、あの主に向き合ってみようと思うんだ」
 彼は頭を上げないままそう告げた。俺の我儘なんだけど、とつげた彼に私は顔を上げるように告げる。顔を上げた彼は言葉を続ける。
「昔は、ああじゃなかったんだ。多分、主の初期刀だった加州が折れてさ、そこから主は……結局、俺は見て見ぬ振り、してたんだ。きっと、主は、ずっと、願ってたんじゃないかって。カナシイって、誰かに助けて欲しいって」
「怖くはありませんか?」
「怖かった。でも、あのとき、部屋の奥で震えてる主をみて、この人は、ただの人間だったんだなって思いだした。そうなったら、全然怖くなくなった。――ああなったのは」
 獅子王さんはそう言って目線を下に向けた。
「誰も、加州の代わりになろうとしなかったことが原因だと思う」
「――いいえ、貴方に誰かの代わりは一生できません。誰かが誰かに成り代わる事なんて出来ないんです」
 そう言って彼の手を取る。願いをかけるように。彼の選択に幸せが訪れることを願いながら。
「貴方は貴方のまま、あの人のそばにいてあげてください。例えあの人から記憶はなくなっても、心が貴方を覚えているでしょうから」
 そう言って彼から手を離す。
「鍵が導く心のままに」
「――鍵が導く?」
「私が知るおまじないみたいな言葉です。心が命じた事には逆らえないから、自分が思ったとおりにすすめ、みたいなことだとは思うのですが……」
 獅子王さんは数度言葉を繰り返し、大きくうなずいた。それはそれは太陽のような笑みを浮かべて。
「――鍵が導く、心のままに!」
「夕飯の準備が出来ています。話は私から定家本丸の審神者さん達に――」
 そう言っていれば襖が開く。三日月さんと定家本丸の審神者さんである。目を瞬いた私たちに、三日月さんはころころと笑った。
「盗み聞きするつもりはなかったのだがな。して、主、どうする」
「どうもこうもない。そんなことを望む刀剣なんぞ、今までいなかった」
 審神者さんの言葉に、獅子王さんと眉尻を下げる。
「だからこそ、試してみるべきなのかもしれん。あのものが審神者として再起できるかどうかを」
 そう言った彼はなかなかに優しい人なのかもしれない。




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