SQUELCH!!


白魔女と聖夜(1)



 遠慮がちに飾られた小さなクリスマスツリーがナマエの目に入ったのは、冬の気配が随分と近づいた頃である。演練が終わり、たまには演練場から繋がる街を見て回ろうかと言う話になったのだ。どうもこの街にはクリスマスというものはあまり浸透していないのか、クリスマスを通り越して年末の準備物が並んでいた。元の場所ではきっと陽気なクリスマスソングがこれでもかと流れているのだろうが、この街はいつもと変わりなさそうである。そんな場所で見えたツリーだったので、ナマエはその方向に足を踏み出した。そばにいた一期一振がそのあとに続き、そのまた後ろを粟田口の乱と秋田が続いた。そうしてたどり着いた先にあったのは小さな洋菓子屋さんだった。カラフルな組み木で作られた店はまるでデイブレイクタウンにある家のようであるし、おとぎ話に出てきそうな家でもあった。窓際にはサンタクロースも飾られている。
「この店は本丸から飛び出してきたようですな」
「何を売ってるんでしょう?」
「ケーキ屋さんみたいです」
 ナマエはそう言って中を覗く。店の奥にあるショーケースには美味しそうなケーキが並んでいた。
「けーき?」
「そう! ここはこの街で唯一の洋菓子屋だ!」
 後ろから聞こえてきた声にナマエ達はびくりと肩を揺らす。そこにいたのは銀色の髪を一つ結びにした男性である。モノクルのような、仮面のようなものを片目につけている。
「失礼ですが、貴方は?」
「おっと怪しいものじゃない。そこの洋菓子本丸の刀剣男士だ。どうだ? 中で食べるスペースもある」
 そう言って男性は扉を開ける。どうぞお嬢さんと中に招いた男性に、ナマエは一期たちと店に入った。壁際には美味しそうなクッキーやフィナンシェなどの焼き菓子が並べられている。中はケーキ屋さんの甘い匂いだ。ショーケースに並んだケーキは特に美味しそうで、どれも綺麗な形をしている。フルーツタルトなんかは宝石のようであるし、チョコレートケーキはツヤツヤとしていて美しい。
「わぁ、美味しそう」
「だろう? 刀剣男士である俺がいうのはなんだが、うちの主が作るケーキはめちゃくちゃ美味い! そして中で食べるならケーキセットもあるぞ」
 ショーケースの後ろに回り込んでそう告げた男性に、ナマエは一期一振と乱と秋田をみた。秋田と乱は目をキラキラとさせてケーキを見ている。
「食べていきましょうか」
「ホント!?」
「いいんですか!?」
「私が食べたいので……一期さんもいいですか?」
「はい、私はかまいません」
 その言葉に、じゃあケーキを選んでといった男性にナマエはケーキをもう一度眺める。色々なフルーツが乗ったフルーツタルト、ツヤツヤとしたチョコレートケーキは濃厚そうであるし、山の形のモンブランの上には大きな栗がのっているし、牛皮に包まれた抹茶のケーキはまるで雪うさぎのようだ。でも、なんと言ってもショートケーキだろうか。真っ白なクリームの上に乗った赤い苺はいかにも美味しそうだ。
「私はショートケーキにします」
「飲み物は?」
「えーと、ホットのミルクティーで」
「よしきた」
「えー! 迷っちゃう!」
「主君! 僕はこの、栗のにします!」
「じゃあ僕はチョコの!」
「では、私は抹茶のものを」
「モンブランにザッハトルテ、抹茶うさぎだな。飲み物は?」
「主と同じものを」
「僕も!」
「僕も!」
「OK、好きな席に座っておいてくれ」
 そう言って男性は小さく設けられた飲食スペースを指差した。四人はその一番手前の席に着く。男性は、おーい、主、客が来たぞー、だなんて言いながら厨房の方を見た。ドタバタという音がしたかと思えば、なんだって!? と驚いたように男性が表れる。ヴェネチアに売られているような西洋式の仮面で顔元を隠した真っ白なパティシエユニフォームに身を包んだ男性である。そうして、ナマエと一期一振達を見ると、一拍おいて、「本当だ」と言いながら嬉しそうに笑った。
「いらっしゃいませ! えーと、紅茶だね。すぐに用意するよ」
 そう言ってパタパタと厨房に入った男性に、ナマエは銀髪の男性をみた。
「すまんなぁ、この街に洋菓子屋はウチしかないんだが、需要がほぼない! いや! ないと言っても過言ではない!」
 ずいっと胸を張った銀髪の男性に、ナマエは首を傾げた。洋菓子屋が一つしかないので有れば、洋菓子屋の需要はあるのではないだろうか。一期一振も同じことを思ったらしい。
「洋菓子屋とやらが一つしかないのであれば、需要はあるのでは?」
「いやー、それがな、ご存知の通り審神者は色んな時代から来ることがある。その中には洋菓子なんか贅沢で、敵国の食べ物だーなんていう奴もいるし、審神者は初代にかき集められた爺さん婆さんの方がまだ多い。となると、和菓子屋の方が需要がある。それに加えて」
「わたしがかくほんまるにはいちされてから、わたしがつくるようになってね」
 厨房から顔を出したのは小豆長光だ。同じくパティシエユニフォームをみにつけている。そういうこった、と銀髪の男性が頷いた。乱はそれを聞いて口を開く。
「そういえば、お隣の小豆さんもよくお菓子作ってるね」
「主君もお菓子を作りますよ」
「でも、私はお菓子作りのプロじゃないからこんなに綺麗なケーキは作れないや」
 ナマエはまたケーキを眺めながら口を開く。
「そうなんだ、かくほんまるにわたしはいるのだけれど、わたしはプロではないから、あるじのようなけーきはつくるのがむずかしいはずなんだ」
 うーん、と悩んだ小豆長光に、けーきのぷろ? と秋田が首を傾げた。
「なんでも主は有名な賞をもらったことがあるらしい」
 銀髪の男性の視線の先には外国語で書かれた賞状が飾られている。名前の部分は流石に隠されているが。
「お待たせ」
 そう言って西洋式の仮面をつけた男性がケーキと紅茶、マカロンを持ってくると、四人の机においた。ナマエと秋田と乱は「わぁ」ともう一度声を上げた。やはり、ケーキはどれも美味しそうだ。いざナマエが一口、としようとした時ナマエの通信端末に通知がはいる。どうやら別行動している燭台切光忠や加州清光、同田貫からのようだ。お隣さんと鉢合わせしたらしい。ナマエはいそいそとケーキの写真を撮ると、メッセージをおくる。今ケーキを食べています、と。その時はそれが騒ぎになるとは思わなかったのだが。



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