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 病院で、だ。たまたま通院の日だったから有休を貰って通院していたのであるが、偶々、蓮と会う羽目になった。達海監督の言うとおりというか。偶々本当に東京ダービー前で、彼のA代表の試合前である。何してんの、こんなところで、と告げた彼に私は苦笑いする。何してるんだろうね、と私はその視線から逃げるように足元を見つめた。言わなければならない。でも、いいたくない。と言っても私は検査着なのである程度は察しがつくだろうが。苗字ナマエさーん、と私の名を呼んだ看護師に私は立ち上がって「じゃあね」と苦笑いした。

 検査から戻ればもうそこに蓮はいない。大人しくしているようにというお決まりの診察を終える。会計をすませて帰ろうとすれば、私が好んで使う出入り口に蓮がいた。人払いがされたように誰もいない廊下。診察待ちだろうか、と思ったがそうではないらしい。恐らく有名人である彼はなかば非常口のようになっているそこから出入りをしている。でもそれにしては、まるで私を待っていたようだった。近くの椅子に座った彼は私を見上げる。
「……お前、どっか悪いの?」
 その言葉に私は目を伏せる。花ちゃんには椿くんに渡してもらった手紙で伝えた。だから、彼にも伝えなければいけない。それは達海監督が言う通り、約束を押しつけた私の義務だ。家ではどう伝えるかを考えていたはずなのに、いざとなれば頭は真っ白だった。そうして口をついてでたのは「ごめんね」という謝罪だけだ。
「……なんで謝るわけ? こっちはどっか悪いのか聞いてるだけだろ」
 不機嫌そうに告げた彼に私は心臓のあたりを指差す。彼はそれがなんだというようにただ不思議そうに私を見上げる。
「――十年前、練習中に倒れて、搬送されてさ。参っちゃったよ、心臓の病気が見つかっちゃって」
 きっと彼は知りたくないことだ。彼はただ目を見開いて私を見上げる。なにそれ、と彼は呟く。私は泣いてしまいそうだった。冗談? と彼は私にまた尋ねる。ここで冗談と言えればどれだけよかっただろう。サッカーを辞めた理由が幸せな理由であればどれだけよかっただろうか。もうこれを彼に言えば私の夢が叶うことは永遠にない。説明は私の義務である。達海監督のその言葉に私は覚悟は決めたはずだった。でも、今になって足元がぐらつくのだ。私はできるだけ彼を見ないように目を伏せる。
「……気づいたら病院でさ、手術しないと治らないって言われて、アメリカで手術したはずなんだけどさ、実際はまだ治ってなくって」
 毎日薬飲まなきゃ死んじゃうかもしれない体で。激しい運動をしても死んじゃうかもしれない体で。
 声が震える。手で顔を覆う。私は認めたくない。なんだかんだいいながら私はこんな自分を認めたくない。いつか一緒にサッカーをするんだ。同じ土俵で、同じ舞台で。耐えていればいつか私はそこに行けるのだと未だに私は心の何処かで思っている。
 ポロポロと流れる涙に、私は唇を噛み締める。
「ごめんね。手術頑張ったらサッカーできるって思ってたのに、リハビリもがんばったのにやっぱりサッカーできなくてさ。二人にあんな期待させるようなこと言っておいて、こんな体になっちゃってさ。ごめん。散々待たせた挙げ句、こんな結末でさ。本当に、ごめん」
 あぁ、もう駄目だった。私は子供のようにただ泣きじゃくるしかない。私はそこに立つことを神様に許されなかったのだ。ごめんと謝ることしか今の私にはできないのだ。
 悔しかった。自分の体がとても。
 悲しかった。二人に黙ってピッチをさることが。
 あの頃のように二人とボールを追いかけられないことが。夢が叶わなくなることが。
 そっと誰かが私の背中に手を回す。誰かが私の頭に手を回して、私の頭を誰かの肩に押し込める。私は言葉を繰り返す。
「ごめんね、蓮、ごめんなさい」
「……謝んなよ、お前のせいじゃないだろ」
 そう少しくぐもった声が聞こえて、私は彼の服を握る。そんなの、お前じゃどうしようもないだろ。蓮はそう言って、私を抱き寄せた。


「ごめん、めちゃくちゃ泣いちゃった」
 落ち着いたので離れる。彼はホントにな、と言って同じく離れた。泣いたような痕がある。泣かせてしまった、と思っていれば彼は私を見下ろす。ガシリと頬をつねられたが。
「お前さー、ホント会った時にすぐ言えよな。というか説明の手紙くらい寄越せばよかっただろ」
「いひゃい」
「……俺たちの勘違い損じゃん」
 言い返す言葉がない。そして痛い。私が大人しくされるがままになっていると彼はある程度満足したらしい。手を離した彼はスマホ貸してと私に手を差し出した。なんだ? と首を傾げながらスマホを取り出す。ロック解除と言われたので言われたままロックを解除する。ラインを起動させた彼はそのまま何かを打ち込む。そのまま返されたスマホを見れば新しい友人が追加されている。
「これ、蓮のやつ?」
「そう」
 その言葉がなんとなく嬉しくって、私はあの頃のように笑う。私の顔を見て彼はぶはっ!! と吹き出す。なにを笑ったんだと彼を見上げれば彼は「いーや」とケラケラと笑った。
「……思ったより、変わらないもんだな」
「きれいになったねぐらい言ってくれてもよくない?」
「誰が。お前変わってねぇじゃん」
「くっそー、腹立つ。自分は大人になりやがって」
 私はそう言って彼をポスポス殴る。それがいつかの昔のようで、懐かしいあの頃みたいで、私達はケラケラと笑うのであるが。





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